そんな会話があってから、数日後の夜。
その後のサンジはいつも通りの態度で、あの時の会話を再度持ち出す事もなかったので、ゾロの方はすっかり忘れていたのだが。



風呂から上がり、シャツとパジャマのズボン姿で寝室にやってきたゾロを待ち受けていたのは、暖房が切られ冷えきっていた部屋と、ベッドの上でにこにこと正座しているサンジだった。
「…………」
まだ濡れている髪をタオルで拭いつつ、ゾロは部屋の入り口で立ち止まる。
サンジが何を考えているのか、判りすぎるぐらい判っていたからだ。

元々暑い地域で育ったサンジは、夏の暑さには強い。気温が上がっても長袖で平気な顔をしている程だ。
しかし、寒さにはそれ程強くはない。冬になると、見ているゾロの方が暑くなってくる程の厚着で過ごしている事が多い。
そんな彼が、部屋に暖房も付けずに待っていたのは、これから体温が上がる事をしようとしている証拠に違いない。
それを察し、無言で立ち尽くしていたゾロだが、いっそ清々しいほどに明るい笑顔で見つめられて溜息をついた。
また後で風呂に入る羽目になんのか…と諦め、ベッドへと近づき、サンジの隣に腰掛ける。
「冷やしすぎなんだよ、部屋」
「すぐあっためてやるって」
そんな短い会話の後。
宣言通り、すぐにサンジに抱き締められ、口接けられた。
「…ふ……」
侵入してきた舌に口蓋を辿られ、己の舌を絡め取られる。
接した箇所から零れる水音に煽られつつ、サンジのその動きを必死で真似ていると、そのまま体重をかけられ組み敷かれた。
行為の序盤の、いつも通りの流れ。
しかし。

「………ッ!?」

その後の展開がいつもと違った。
「何を……!?」
ゾロの焦った声が上がる。
力を抜いて口接けを受けている間に、彼の両手はベッドの支柱へと手錠で繋がれていた。
予想外の展開にゾロは、それを外そうと力を込めて引っ張るが、ガチャガチャ音が鳴り金属の感触が肌に食い込むだけで外れない。
「それ、偽物だけどアダルトグッズの店で売ってるよーなオモチャじゃなくて、限りなく本物に近いから。そう簡単に外れねーよ。諦めろ」
「何するつもりだ、テメェ!!」
「ん? SMプレイ」
怒鳴りつけるように投げ掛けた問いに、返ってきたサンジの言葉。
漸く先日の会話を思い出したゾロは、まだ諦めなかったのかという呆れと怒りの視線を向けるが、サンジは怯む様子もない。
「ま、そんな顔すんなって。SMっていっても、鞭も蝋燭もバイブも○○○も××も△△△△も使わねーから安心しろ」
サンジの口から出てきた単語の幾つかは、その方面に無知なゾロには何なのか全く想像もつかないが、かといって詳細を聞きたくもない。
「手錠! 既にこんなアホなもん使ってるじゃねーか!!」
「それはプレイの道具じゃなくてだな、てめェが抵抗するだろーから仕方なく」
仕方ないだと、と怒鳴りつけようとしたが、察知されたのか口を手で塞がれた。

「そう怒るなって…何も考えられない程気持ち良くしてやるから、な?」

見下ろすサンジの視線には、壮絶なまでの艶気が含まれている。
既に気分は女王様だか王様だからしい彼を留まらせようと、膝を振り上げ跨る身体を蹴落とそうと試みたが、ゾロのその行動を察した相手にあっさりと止められてしまった。




「…もう、……ッ離……」
身を捻り、胸に置かれたサンジの頭を振り払おうとするが、腕を拘束された身ではそれも敵わない。
「……い、い加減に…し…」
先程からずっと、胸の突起を弄られ続けている。
もう何分経ったろうか。既に一桁の数字では足りないかもしれない。
片方は二本の指先で摘み、優しく擦り合わせ扱いて、時折先端を軽く引っ掻く。もう片方は舌で転がし、固くなったそこを吸ったり甘噛みしたり、舌を尖らせ押し潰してきたり、と。
他の箇所には触れられず、そこだけを執拗に攻められ、とうとうゾロが音を上げる。
やめろ、と何度か発した声は悉く無視された。
「あ、ぁ…ッ!」
元々そんな所は大して感覚は鋭くなかった筈なのに、サンジに抱かれるようになってからは、随分開発されてしまっていた。
そこを弄られる事は、今までの行為の中でもかなりの時間を占めていたのも事実だが、それにしても今日はいつもよりしつこすぎる。
「ここだけでイけるだろ? 挑戦してみようぜ」
「…なッ……」
胸に舌を這わせつつ、篭もる低音でサンジが発した言葉。
喋った際に零れた息が、紅く染まりきった敏感な突起にかかり、ゾロの身体に震えが走る。
刺激は全て下肢へと響き、まだ直接には触れられていない自身は既に硬く張り詰め、先端から雫を零していた。
その液体がゆっくりと幹を伝い落ちていく感触すら、もどかしく狂おしい悦楽となり、ゾロの神経を苛み続けている。
「う………く、ぁッ…!」
下肢の熱を意識したその時、突起を強めに噛まれ、片方は指で摘まみ捻られた。
その強く鋭い感覚に、ゾロは耐え切れず嬌声を発し、背を強く逸らした。

「…やーらしい身体。乳首撫でられて噛まれただけで、こんなに出しちゃうんだ……?」

そんなサンジの言葉に、ゾロの身体は反応し、ひくりと震える。
荒く息をつくゾロの下肢は、ぬめる液体に汚れていた。胸への刺激だけで快楽を極めた証の、その残滓。
「そんなにココ、気持ちいいのか? 随分カンジ易くなったよなぁ」
耳元で囁くサンジの言葉に、より一層羞恥を煽られる。赤く火照った頬を自覚しつつも、精一杯眦を上げ睨みつけるが、サンジは唇の端を上げ笑いながら受け流すだけだ。
「何、ちゃんとコッチに触ってイかせてほしかった?」
「違……、ッあ…!」
濡れた下肢に伸びてきたサンジの指で、自身の先端を弾かれる。
達したばかりのそこは常よりも敏感になっており、その強い刺激に鋭い痛みが走るが、同時に奇妙な快楽をも神経にもたらす。
「また硬くなってきた…」
「……ぅ…」
ソコに目を向けたサンジが、艶めいた嬌笑を含んだ声で言うが。わざわざそんな実況をされなくても、自分の身体の反応ぐらい判る。
指先で、張り詰めてゆくその根元から先端まで、ゆっくりと辿られる。しかしサンジはそこを責め続ける気は無いらしく、すぐに陰茎から指は離れた。
気まぐれに動く手は、次は陰嚢へと触れてくる。掌で柔らかく揉みしだかれ、ゾロは唇を噛み締めた。口を開けば、どんな声が上がるか自分でも判らない。
それなのに、サンジの手は噛み締めた唇を開かせようとするかのように、性感帯を暴き続ける。

「く………」
サンジの指は更に奥へと忍び込み、後孔へと辿り着く。
その周辺の襞を円を描きつつ撫で蠢く、繊細な指先。いつもなら、すぐに後孔へと侵入してくる指は、何故か今日はその気配を見せない。
体内へと入り込む事もなく、決定的な刺激を与えられないまま、入口だけをゆるゆると愛撫される。

「…ココ、ひくついてるの判る…?」
「…っ、!…」

慣らされた身体は、その指が体内へと侵入し蠢く感触を覚えてしまっている。
中を抉られる感覚をつい思い出し、物欲しげにそこが蠢動するのが、サンジのその言葉によってはっきりと意識させられてしまう。
羞恥に耐え切れず、反論もせずにゾロは瞼を固く閉ざした。しかし視界を閉ざしても、感覚を遮断出来るわけではない。むしろ、サンジの指の感触に対して更に鋭敏になってゆくかのようだった。
もどかしくてたまらなくなる。自由にならない腕も、与えられる、緩やかすぎる愛撫も。
後孔の襞だけでなく、腰までもが無意識にねだるように蠢いてしまう。
くすりと、小さく笑う気配を近くで感じた。
「挿れてほしいなら言ってみな」
自分から口にしろ、と。耳元に低く囁くサンジの声。
咄嗟にゾロは首を横に振るが、耳朶に触れる吐息と常よりも低めの声音にすら煽られ、下肢へ快楽として響いてしまう始末だ。
それでも、そんな言葉を言う事は出来ず、口を引き結んでいたら。
「ふうん……」
…それならそれでもイイけど。素直じゃねェな。
そんな声がまた耳元に吹き込まれると同時に、入口を撫でていたサンジの指が離れた。

まだまだ焦らす気らしい─────…


それを察し、ゾロは歯を噛み締めた。



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