多少捻くれた悪戯を仕掛けられた事も度々あったが、抱く立場でも基本的に甘えたがりのサンジには、こんな風に一方的に責められた事はかつてない。
拘束し自由を奪いながらの、甚振るような行為。
それを批難したいのだが、元々サンジとは違って口は達者ではないゾロだ。相手を言葉で責めるのは苦手な上に、中途半端に煽られた身体に翻弄されて、思考がうまく回らない。
サンジを睨みつけながら「テメェ」などと毒づくのが精一杯で、相手は勿論その程度では堪えない。



「あッ…!?」
離れていたサンジの指が、再度ゾロの下肢へと伸びてきた。
その指にいきなり、張り詰めたものの根元を握られ、圧迫感にゾロはつい戸惑った声を上げる。
「今日はココ碌に触ってねーのに、こんなになってンだからな……感じすぎじゃねェの?」
「……く……」
揶揄するような言葉に、怒りより羞恥を煽られる。
視線を横へと流し、声を出さないよう歯を食いしばるが、熱を持ち紅に染まった頬と乱れた吐息は隠しようもない。
「……ッ!」
そんなゾロの下肢へと、サンジは顔を埋めてきた。
ぬめる舌で中心を舐め上げられ、上げそうになる喘ぎを必死で飲み込む。だが、耐えられたのも僅かな間だけだった。
サンジの指に締めつけられ、射精を阻まれた上での容赦ない口淫。深く含まれ、強く吸われる度に、耐え難い悦楽と苦痛が背筋を走る。
もうどれぐらいの時間、そうして責められ続けただろう。
最初のうちは、激しく乱れる吐息の下から制止を求める言葉を何とか搾り出していたが、それもいつしか途切れ、最早意味のなさない喘ぎのみがゾロの口から零れていた。
「…う……、あ…ぁ…」
性器を口で嬲られたまま、サンジの手が胸の突起へと伸ばされる。
先程まで執拗に嬲られていたそこは未だ過敏なままで、下肢の過ぎた悦楽と共に脳へと響き、心まで苛む。
頂点まで導かれることのないまま齎され続ける快楽は、そんな扱いをされた事のない身体には辛い。
「…嫌、だ……も……」
「嫌? じゃあどうしてほしい?」
「う……」
「どこがいい? …どう触られたい?」
追い詰められたゾロの心へと侵食してくる、誘導の言葉。
しかし砕けかけた理性がそれでも邪魔をし、問いに答えることは出来ずただ歯噛みする。
ゾロのそんな様子を見遣り、サンジが苦笑した。

「強がるなァ、ほんと…」
「あぁ…!」
声と同時に、ゆっくりと指が後孔から体内へ入ってくる感触。いつしか待ち望んでいたその刺激に、ゾロは背筋を逸らし嬌声を上げた。
長い指に内部から犯され、蠢くそれは確かな快感を生み出す。
「ひ……」
指先が前立腺を探り当てる。サンジにとっては、知り尽くしたゾロの身体だ。
そこを強めに弄ぶと、ゾロの身体がびくりと跳ねるが。
「っと、まだイくなよ。…まあ、こう押さえられてちゃイけねぇだろうけど」
サンジの言葉の通りだ。内部へと侵入する指とは逆の手で、ゾロの性器の根元は相変わらず締めつけられたままだった。
達する程の衝撃を与えておきながら、極める事は叶わない。
散々体内の性感帯を強く刺激していた指は、暫くすると引き抜かれてしまった。
「……ぅ」
弄られ熱を持った肉壁が、淋しげにひくつくのが自分で判ってしまう。
長い時間焦らされ続け霞んだ思考に、再び誘惑の低い声が染み込んで来る。

「ほら、言ってみろよ…お前が好きなようにしてやるから」

いつも、この行為に置いては。
サンジは自分勝手に振る舞うようでいて、それでもどこか甘えるような態度を見せていた。
こちらの意に反して変な小道具を使う事もあったが、それも一応ゾロを昂める為の手段としてだけ用い、こんな風に苦痛と紙一重の快楽に溺れさせた事は一度も無かった。
だが今日は違う。

「言うまで、このままでいてもいいぜ。ずーっと手錠で繋いだまま、死ぬまで抱いてるってのもロマンあるかもなァ」
そんな台詞を、耳元で吹き込む男。
その指先は、気まぐれに身体中の性感帯や性器に軽く触れ、撫で擦り、煽り続けて。
もどかしい感触に晒され、ゾロは身を捻り呻いた。
固く閉じていた瞼を上げ、自分を苛む相手へと視線を向ける。
これまでの酷いやり方に、相手の表情は意地悪げなものではないかと予想していたのだが。視界に映ったサンジの目は、何故か優しげで、どこか切なげでもあった。
そんな顔をしながら、
「中をおれのモノでグチャグチャに掻き回して、深く突いて欲しいって。……強請ったら、その通りにしてやるよ」
かつて聞いた事の無いような、卑猥な言葉で責めてくる。
矛盾している気がする。
優しさの見えない行為と、優しい表情。
相反するそれらに、更に心まで乱されてしまう。
耐え切れず瞳を閉じ、荒い呼吸を繰り返し。翻弄される中で自覚する、自分の中にもある矛盾。
反抗する心と、相手に全て委ねたくなる心がせめぎ合い、身体も感情も渦に飲み込まれるように溺れて行く。
そして、漸く口にした言葉。

「さっさと……入れて、好きな、ように……しろッ……」

これが精一杯の譲歩だ。あんな卑猥な言葉を用いての哀願だけは、死んでも出来ない。
それでも、強請る言葉には違いない。
至近距離で、サンジがくすりと笑う気配がした。
「はん、かわいくねェおねだりだな。……でも」
こういうのもそそるな、と耳に口接けられながら、掠れる囁きに舐め上げられる。
その感覚にも背筋に痺れが走り、催促するようにゾロの腰が揺れた。
漸く焦らす事をやめたサンジは、張り詰めていた自身で熱を持ったゾロの後孔を貫き、今度は望むままに極みへと導いて行った。




「だからな、すんげー初級のSMなんだってばー。こーいうな、言葉攻に焦らしプレイとかってのは」
「うるさい死ね」
「…死にそうによがってたのはそっちの癖に…」
「………テメェ…」
「あっうそ。わりぃ、ごめンなさい!」

情交の後。漸く手錠を外されたゾロは、暫く布団に突っ伏したまま立ち上がる事も出来なかった。
拘束されたまま責められ、嬲られ続け、それによって導かれた絶頂による疲労は、正直今までの比ではなかった。
布団の上に転がったまま、殺気すら込めてサンジを睨みつける。
そのゾロの心を占める感情の大部分は怒りだが、少しは羞恥心でもある。いつもよりも乱れた自覚が無いわけでもなかった。
そして悔しい事に、恐らくサンジにはそんな感情をも見抜かれている。だからか、彼は凄まれてもあまり怯む様子もないまま、言葉を続けていた。
「ただ苛めたり酷い事したりして楽しんでるわけじゃねーぞ、こっちだって。サドとマゾってのはあれだ、等価交換とでもいうかなー」
「…何だそりゃ…」
「どこまで受け入れてくれるのか、どこまで愛してくれるのか。どきどきしながら試してんだよ。嗜虐する側だって内面にマゾっぽいところがあるってコト」
何だその理屈は、とゾロは呆れる。
そんな精神など、判る筈もない。
そもそもサンジは、適当な事を言ってこちらを言いくるめるつもりではないのか、という疑いも捨てきれない。何分、口だけは達者な男だ。
「で、そんないたいけなサディストの加虐性も内面の弱さをも受け入れて、それでも愛してくれる強い相手がマゾヒストさん」
「おれはマゾじゃねー!」
「いや充分素質あるって」
笑顔で自信満々に宣言されても、ゾロとしては嬉しくも何ともない。
大体、あんな行為を受け入れたつもりもない。妥協ならしたかもしれないが。
「とにかく、二度とあんなやり方したら承知しねェからな…、普通にやれ普通に」
溜息をつき、相手を睨みつけつつ、漸く戻ってきた体力で身体を起こす。
疲労の誘いのまま眠ってしまいたいが、汗やら何やらでべたべたした身を洗い流さなくてはと、風呂場へ向かった。
その背を見送るサンジの唇に、笑みが浮かぶ。
結局こうして許してしまうのだ、ゾロは。
寛容さもMの一面ではないかとサンジとしては思うのだが、また機嫌を損ねるかもしれないから言わないでおく。

加虐と被虐。
相手を独占し好きにしたいと思う心も、逆に独占され好きにされたいと思う心も、表裏一体のものだ。
どちらも自分の中に確かにある感情。
サンジはベッドへ腰掛け、煙草に火を点けた。
ゾロは果たして気づく事が出来たかね、と思いつつ煙を吐き出す。
いや、多分無理だろう。恋愛面等の感情にはとことん疎い男だ。
「まァ、あの鈍感さがイイんだけどな」
呟きつつサンジはまた笑った。




シャワーを浴び終えたゾロは、消耗した水分を補う為台所へと向かった。
コップに水を汲み、隣の居間で飲み始める。
目の前にはテレビ、そしてちゃぶ台の上にはハードカバーの写真集。
────全く。
ゾロは溜息をつく。
このメイリン様とやらのおかげで、今日は何だかえらい目に合った。いや彼女自身に罪は無いのだが。
…いや、ほんの少し引っかかる点が無い事もない。
女だとか、女王様だとかは関係ないのだが、サンジの何だか妙に熱い目が向けられるのを見て、褒め称えているのを聞いて、ほんの少しだけ楽しくなかったのも事実。
絶対本人には言わないが。
「ふん…」
写真集を手に取る。
そこに映る人物は確かに美人の部類に入るとは思うが、やはりまじまじと見ても、この衣装やSMの世界とやらの良さは判らない。
こういう好みに関しては移り気なサンジの事だ。また他に好みの女性芸能人が出てくれば、こうして楽しげに写真集を購入し、その世界に影響されたりするのだろう。

自分への被害も考え、出来ればあまりマニアックなタイプではなく、普通のタイプにハマってくれるのを願いつつ。
ゾロは手にしていた写真集を再びちゃぶ台に置き、サンジの待つ寝室へと向かった。

お題「SM」。でも大してSMになってなくてすみません||||
3万HITにリクくださったレンさんへ捧げたいのですが、
こんな下品なの捧げていいのか迷いつつ…(◎△◎;)
メイリン様のモデルは、ガ●ダムSEEDのキャラではなく
M字開脚なかたです。タイトルからしてバレバレですが(笑)


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