上着だけをはだけたサンジが圧し掛かってくるのを、無感情に見詰めた後、ゾロは瞼を伏せた。
上から見下ろす、相手の視線を拒否するかのように。
視線は交わらないまま、無言の空間で行為だけが進められて行く。




サンジの意のままになる身体とは裏腹に、意思は拒絶を示し、瞼を閉じ視線を向けようともしないゾロから、衣服を矧ぎ取る。
外気に触れる肌は外温の低さからか、それとも拒む感情からか、粟立ちを見せているが、構わずサンジは指先でその肌を辿って行く。
人形のように横たわるゾロも、身体を這い回り、蠢く指先には僅かに反応し、眉が寄せられる。そんな小さな反応を、サンジは冷めているかのような目でじっと見下ろしていた。
指先が、下腹部へと伸びる。

「………ッ!」

下肢を乱暴に弄ばれて、思わずゾロの身体が逃げを打った。
意識下で拒む身体は萎縮し、触れられる感覚の全ては、そそけ立つような悪寒しか残さない。
吐き出しそうなくらい悍しいとすら思う脳に、神経は快楽を伝えてくる筈も無く、サンジの方も、それが判っているようで、敢えて感じさせるつもりもないらしい。
苦痛の様子を見ても、構わず無造作に秘部を探ってくる。
「ガチガチじゃねーか。こんなんじゃ、入るモノも入らねぇよ」
呟くが、だからといって止める気配はなく。無体を強要しながらも、労わる気配も無いまま、舌で軽く湿らせた程度の指を強引に侵入させる。
圧迫感と苦痛と吐き気に、小さく呻きが零れ、嘔吐くのすら無視して体内を探り、入口を広げようと試みるが。
「あーあ、無理だなコレ…」
諦めたように呟き、指を引き抜く。それでも「ちょっと試してみるか」と、衣服を寛げ、完全にはまだ勃起しきっていない自身を自ら擦り、硬く反応させる。
「っ……ぅ…、」
秘部に宛がわれ、そのまま押し入ろうとする動きに、無意識にゾロの身体が逃げようとするが。それを許さず、サンジはその腰を押さえつけ、引き寄せる。
ゾロの方としても、相手に唾棄したい思いを抱きつつも、もはや抵抗するつもりは無いのだが、どうしても身体が受け入れようとしない。筋肉が固く収縮し、異物の進入を拒む。

サンジは自分の身体を寄越せと言ったのだから、これを受け入れないと、この地獄のような時間が終わるとも思えず、早く解放されたい一心で、力を逃そうとゾロとしても一応、努力はしているのだが。
強く押し当てられ、下肢に減り込もうとする異物の圧迫感に、まだ挿入ってもいないのに苦痛を感じるばかりで、とても受け入れられるとは思えない。

「ッたく、これだから処女は……」
顔を顰め呻くゾロに舌打ちし、自分の前戯の不足を棚に放り上げ、苦々しく呟く。
慣れない反応を見て、もしかして女の経験も無いのかと、揶揄うように問いかけるサンジの声に、僅かに目を開けたものの、悔しげにすぐに逸らしたゾロの頬が朱に染まっていた。
「しょうがないな、優しくしてやるか」
乱れた長い前髪を掻き上げながら、サンジはベッドから降りた。
サイドテーブルの引き出しを開け、中から茶色の小瓶を取り出す。
その小瓶と、テーブルの上にあったワインの瓶を持ち、ベッドへと戻り
「これ、飲めよ」
と、小瓶から白い錠剤を取り出し、目を開け半身を起こしたゾロの鼻先につき付けた。
サンジの掌に乗せられた、幾粒かの錠剤。
それを訝しむように眺めるゾロに、信じられない言葉が掛けられた。
「セックスドラッグって知ってるか? 結構効くぜ。特に、テメェみたいな経験ねェヤツには」
耐性無いからなと口の端で笑うサンジを、目を驚愕に見開き、その視線でぎっと睨み付ける。
媚薬の一種であると、その台詞から認識出来た。
「心配すんなよ。別に副作用もねーし、依存性も低いし。気持ちヨクなれるぜ?」
だからといって簡単に、そんな物を飲める訳も無く、錠剤に視線を落とし固まっているゾロに、

「おれの言いなりになるんだろう?」

サンジが言い放つ。諭すような声音で。
脅迫でも、成立した契約。それに、ゾロが結局は逆らえないのを知っているからか、その声はあくまで優しい。優しさの中に、無数の棘は含まれているけれども。
それだけを言い、あとはゾロに判断を委ねるとばかりに、口角を不敵な笑みに歪めたまま、無言でゾロの様子を伺う。

選択肢など、与えてもいないくせに。

「………………」
暫くの重い沈黙の後、ゾロがその錠剤を受け取った。
躊躇い、時間をかけながらも口に含むと、サンジが顎を捉え接吻けてくる。
口移しに流し込まれる、酸味の強い液体。
ワインだという事は、舌先に感じる味とアルコールの刺激でわかる。吐き出す事も出来ずゾロは、錠剤と共にそれを飲み下した。






「………う……」

吐息が荒い。跳ねる身体を押さえる事も出来ず、強くシーツを握り締める。
そんなゾロの様子に、更に追い詰めるようにサンジは愛撫を施して来る。
先程と違い、すぐに挿入しようとはせず、焦らすかのように触れてくる舌と指先に翻弄され、声すら漏れるのを押さえられない。
最初のように、乱暴に扱われる方が余程マシだと思うのに、そのゾロの屈辱感をわざと煽るかのように、しつこく触れてくるのだ。
首筋をきつく吸われながら中心へと指が絡まり、思わず仰け反った胸の突起に今度は唇を移動させる。
そんな行為に、熱くなり汗ばむ身体を感じ、ゾロは歯噛みした。
薬が、神経を狂わせている。
どうしようも無い熱が身体に篭もり、意識が飛びそうな気がしてくる。
油断したら、目の前のサンジに縋りついてしまいそうな程の性感に、恐怖すら感じるのに。
身体は意識を裏切り、貪欲に快楽を求めていた。
「あ……ッ、…」
扱かれていた自身に、舌が絡みつく感触。
サンジの頭に腕を伸ばし、引き離そうと試みるが、震える手ではそれも敵わない。
むしろ、その頭に置かれた手も、閉じようと動く両の腿も、まるで離したくないとばかりに、その頭を固定しているかにすら見える程だ。
這い回る舌が、敏感なその箇所でも特に感じる部分を通る度に、噛み締めた唇から喘ぎが零れる。陰嚢を伝い、流れ落ちて秘部までも濡らす唾液と先走りを、指先に絡め、再びサンジがそこに触れてくる。
「……っ…!」
今度は、先程のような強固な抵抗は無く、ゆっくりと奥まで指が飲み込まれて行く。
前に中を探った時とはまるで別人のように、丁寧に優しく広げる指に、思わず腰が揺れる程の刺激を感じる。
口腔で甚振られる自身の快楽と相俟って、あっけなくサンジの口に白濁を射出してしまった。

「…!!」

そのまま身体を起こしたサンジに唇を合わせられ、青臭くぬるついた粘液を流し込まれたが。ワインの時とは違い、それを受け入れられずに、ゾロは顔を離しシーツの上に吐き出してしまう。
咽せて苦しげに荒い呼吸を繰り返すさまを、サンジは冷めた笑みを浮かべつつ嫣然と眺めていた。
「嫌がってても、ちゃんとイけるじゃねェか」
嘲笑うその言葉に、サンジを睨み付け、途切れる息の合間から責める。
「……ヘン、な薬…、飲ませといて………何言ってやがる」
ふっと鼻で笑い、「まあな」と呟きながら。
ゾロの下肢を引き寄せ、足を開かせた。
「薬でカンジてんだろ? 今度は拒むんじゃねーよ」
言いながら、膝の上にゾロの腰を乗せるような状態で、位置を固定する。
下肢に再び宛がわれる、サンジのモノの熱に、背筋が竦むような思いをするが。
意識とは逆に、丁寧に解された秘部の筋肉が、まるで求めるかのように収縮しているのが自分でも判り、頬が羞恥で染まる。
衝撃を予想し、瞳を固く閉じた顔に、サンジの指が伸ばされた。
ゆっくりと、額から頬を撫でる感触が意外な程優しく、訝しんだゾロが思わず目を開けると。

「────あぅ……ッ!!」

その瞬間に、秘孔に押し当てられ圧迫していた熱が、内部へと突き入れられる。
飲み込まされた異物の衝撃に、目を見開いたまま悲鳴が零れた。
先程は、受け入れる事すら出来なかった程に萎縮していた筋肉は、今では誘い込むかのように、侵入する異物に纏わり付き蠢いている。
苦痛はあるものの、ゆっくりと奥へと挿入れられる行為に、神経は確かに快楽を捉え始めていた。






下腹部に、篭もるような鈍痛が残る身を引き摺り、無理矢理ベッドから立ち上がる。
床へと散らばった衣服を拾い、のろのろと身に纏うゾロを、サンジはベッドで煙草をふかしながら眺めていた。
「辛いだろ。歩けないなら、泊まってけば?」
親切ごかして掛けられる台詞に、ゾロは無言のまま返事もしない。
「そんな拗ねンなよ。約束は守るし、テメェだって良かったろ?」
あんなに善がっといてさ、と。
揶揄う口調で語りかける言葉に、今度はゾロも反応した。
激昂し、怒鳴りたいのを押さえつけ、低く呟く。
「あんな物を飲ませておいて………」
自分の意思による快楽ではないと、言外に響かせるが。
「はっ、信じたのか? あれ、媚薬なんかじゃねぇのに?」
サンジが笑う。
「ただの胃腸薬だぜ。暗示にかかり易いな、お前」
驚愕するゾロに向かい、嘲るかのように。
無慈悲に響く声は、羞恥に震えるゾロへと突き刺さってゆく。
一度口を開きかけ、しかし何も言えず沈黙し、ゾロは部屋を飛び出した。



振り返らず、サンジに背を向けたまま、扉を荒々しく閉じたゾロには、知る事は出来なかった。
その時の、サンジの表情を。

小さく、小さく呟いた言葉を。



「…………じゃあ、な………」



これで。もう。
全てを捨てて行ける。


「ごめんな」







─────…絡みつく、蜘蛛の糸から。




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