毎度の事ながら、ゾロと喧嘩中。もータメ息も出ねえ。

そりゃ確かに俺だって悪いさ。あいつの意固地な性格わかってて、それでも聞きたい言葉があって、無理に言わせようとした。
で、スネた。
喧嘩になって、がなりあって、その後は更に悪い、無言の冷戦中。

でも。
でもだぜ。でもよ。

「俺ら、恋人同士じゃないんかい……」

いわゆるあれだ、好きな相手から「好き」って言葉、聞きたかっただけなんだぞ俺はー。
何が悪いんだ。いやちょっとは悪かったかもしんねーけど。
そりゃ確かに、ヤってる最中にそんな事持ち出して、「好きって言わなきゃ続きしてあげない」とかいろいろ言ったけど。焦らしたりしたけど。
「じゃもういい! 続きなんざいらねー!! お前とは二度としねえ」とか怒鳴られて、最中だったとゆーに、そこで中断されて。欲求不満も残るしよう…

そんなこんなでもう一週間。俺らの雰囲気がギスギスしてるから、ナミさんや長っパナにも「何あったか知らないけど仲直りしろ」って注意されるし、さすがの天然さんな船長も、喧嘩中なのは気づかれたようだし。
ま、船長さんはあんまり心配もしてねーみたいだけどな。



「仲直りねー……」
…俺も大概意固地だ。自分から折れる事が、なかなか出来ない。
そもそもやっぱり、あいつからの告白だって聞きたい。
だって、あいつだって俺の事好きなはずなんだ。じゃなきゃ俺があいつを押し倒す事なんざ出来るはずないんだし。
俺が、最初口説いた時に斬られもせずに、今生きてるのが何よりの証拠だろう。
だったら、ちょっとくらい態度で示したり、言葉にしてくれたっていいじゃねェか。
そーゆーの、俺は滅茶苦茶態度に出してるのに。俺ばっか。

「も少し素直になってほしーよ……」

夜空を見上げて嘆いてみたりして。
ゴーイングメリー号の甲板から見る星空は、今日も絶景だ。

「あ」

見上げた先の空に、流れ星が見えた。
尾を引くそれに、咄嗟に頭の中で願い事を唱える。…何でか知らんが、流れ星を見ると、慌てて願い事を考えてしまう。星が一瞬で消えて、何もお願いできないと、妙に悔しかったり。そんなん俺だけじゃないはずだ。こりゃもう、遺伝子に「流れ星=願い事」という図式がインプットされてるに違いない。
冷静に考えると、そんなんで願い事が叶う訳もないのに。
それも、今回の願いはなあ…

「ゾロが素直になりますよーに!」

…咄嗟に浮かんだのが、コレだったもんなあ…; 
自分で自分にダメ出し食らわせたくなるってのホント…。





料理人の朝は早い。
麗しき美女と、野郎どもの食欲を満たす為、朝もはよから献立考え下ごしらえして。
まだちょっと眠い目をこすりながら手早く調理する。
準備も粗方終わる頃、ねぼすけなゾロ以外のメンバーは起きて、ここにやってくる。
まず大抵は、船長であるルフィだ。
ばたばたと走ってきて、開口一番に「メシ!肉!」のはず。いつも通りの光景。

だがしかし。今日は違っていた。
いや、ルフィがばたばた足音立てて、走って飛び込んできたのは、いつも通りだったんだが。

「サンジー!! こんなの落ちてた!!!」
「……………は?」

ルフィが小脇に抱えてるのは……子供。多分、10歳よりちょっと上くらいの少年。
「離せー!!!」
と叫びながら、まっ裸でじたばたしている。
「落ちてたって……一体どこに??;」
「ゾロの服ん中!」
ぞ、ゾロの服の中????
「じゃ、ゾロは?」
「いなかった!」
いないはずねーだろ、と問い詰めると
「だからホントいなかったんだって。ゾロの服にくるまってコイツが寝てた」
なんて言う。そこへ、
「おはよー……って、誰? その子」
麗しの美女、ナミさんの登場だ。
いつもなら俺は、目をハートマークにして、「おはようございます!ナミさん、今日もまた一段とお美しいvv」と語りかけながら、新鮮なオレンジジュースの一杯をお渡しする所なんだけど。
裸のコドモは、女性を前に、自分の姿に羞恥心を覚えたらしく、暴れるのをやめて縮こまってしまった。
「わー、ゾロそっくりねー」
そんな子にお構いもせず、ナミさんはその子供の顔を覗きこむ。

そうなんだよな。俺も思ってた。

緑の髪、きつめの目つき、顔立ち。
ゾロが子供の頃は、絶対こんなだったろーな、という容貌の少年。

「俺はゾロだ!! 何でお前ら、俺の名前知ってるんだ!」
「やっぱりそーか!そーじゃないかと思ってたんだ!」
少年が叫んだ言葉に、楽しそうに叫び返したのは、ルフィ。
「お前、ゾロそっくりだもんなー♪」
「そっくりじゃなくって、俺がゾロだって言ってるだろ!!」
お子様はキレ気味だ。
「そーかそーか。ゾロか。うんうん。でもなんでちっちゃいんだ??」
「ちっちゃいとか、一体何なんだよ!! 俺はずっとこうだぞ!!! そもそもここ、どこなんだよ!? 俺は村で剣の修行してたんだっ、何でこんな所にいんだよ!?」
お子様、キレて混乱中。いや、あのルフィとの会話は大変だろーなと他人事ながら思う
が。


しかし、会話から推測するとだ。

この子供は、やっぱりゾロで。
何故か突然子供に戻ってしまっていて。
その上、俺らの記憶は無い、と。


「…一体何でまた……」

世の中、クソけったいなコトが起きるもんだ。




NEXT

TOP