「な………!」

はたと気付くと、下からサンジを見上げてベッドに転がってる状態になっており、ゾロは焦る。
じたばたと抵抗しようとしたら
「一度きり…って、ヤる事認めたのは、てめーだろ?」
上から押さえつけるサンジが、痛いところを突く。
「認めたからには契約だ。約束だ。破るのは問題だなー」
面白がっているような声音で言われて、慌てている自分が馬鹿にされているような気がしたゾロは、とりあえず冷静にならねばと考える。
「サンジ」
「あ?」
「ひとつ、確認したい」
「あい」
「…………お前、どっちをやるつもりだ?」

その質問に、サンジの薄くて紅い唇がにっこりと笑顔を形取り、言葉を発した。

「アンタに突っ込む側v」

嫌な予感は見事的中。
そんなん、ハートマーク付きで可愛く言われても、嬉しくもない。

 

「やっぱりやめだー!!!」
聞いた瞬間にまたジタバタし始めたゾロを、「だから約束破んなって」と、肩を掴んで押さえる。
「どーしたらそんな考えになるんだ、おれが下って……おい、脱がすなサンジ!!!;」
外見的に絶対逆だろうとゾロは思う。細っこくて中性的なのは、サンジの方なのだ。そもそもここに入るのだって、女役してたのはコイツなのに。
「だって、ゾロお前、男ヤった事あんのかよ」
「じゃあテメェはあるってのか!」
「おれも男ヤッた事はないなあ。あ、でも女の子の経験はてめーよかあるぜ絶対。大丈夫、おれうまいから♪ 男同士の知識もあるしィ」
約束を破るだの何だの言われて、思い切り抵抗するのも躊躇っている「約束バカ」のゾロを、上から見下ろし、服の上から上半身を軽く愛撫する。

「それに男にヤられんのは、もうコリゴリなンだよね、おれ」

その言葉に、ゾロが絶句する。
どーやら過去に、何か男関係(の肉体関係)で、何やらトラブルがあったらしい。
「な、何………」
思わず聞いてしまった言葉に、「いろいろあったんだよなー」としみじみサンジがゾロの上に乗っかったまま話し出した。
「3年くれェ前かな。バラティエに新しく入ったコックの男に惚れられてさ」

 

見た目も中身も荒くれた男所帯のバラティエで、綺麗所のサンジは確かに目立つ存在ではあった。だが、性格を知っている古くからいる男達は、天地がひっくり返ろうともサンジに想いを寄せたりする事はなかったのだが。
新しく入ったその男は、そんな事知らないままその外見に惹かれて、命知らずにもサンジを口説いてきたのだ。
男には容赦無いサンジは、たまにそんな風に口説いてくる客と同じように、返事の代わりに自慢の蹴りをくれてやろうと思ったのだが。
だがしかし、考えがそこでちょっと変わった。
折りしも当時は思春期真っ最中。女の子とのセックスの味も覚え、テクを磨き始めたばかりの、イケナイお年頃。

(……男どーしって、ハマるとすげー気持ちイイって聞いたけど……)
どーなんだろ。

そんな事を考えてしまった、性の暴走する青い時代(今もともいうが)のサンジ君16歳。
男に靡く気なんざ、これっぽっちも無いけれど、自分の知らない「キモチイイ事」は気になる。
体だけならいいかなーなんて思いつつ、結局誘われるままベッドインしてしまったのであった。
が。

 

「Bまではまあイイわけよ。触られたり舐められたりなんざ、女の子が遊びながらしてくれる事と変わんねーもん。だけどなあ」
べらべら話す内容は、サンジは大した事の無いように喋るが、下で聞いてるゾロにはまさに「唖然」の一言であった。無言で固まってしまったゾロに、これ幸いとばかりに、更に服を剥ぎながらサンジは続ける。
「入れられんのが、もう!! すっげ痛ぇの何の!!! ちょっと先っぽが入っただけでアウトだったね」
あいつが下手だったのか、おれのが狭いのかは知らねぇけどさと言いながら、思い出したように眉を顰める。
「やめろって喚いても止めようとしねーからさ、思わず蹴り飛ばしちまった」
皆さんご存知の通り、岩をも砕くメガトン級の蹴りを、パワー全開レベルMAXで繰り出してしまったのである。 
「まあそんな苦い思い出があるわけよ。あれ以来、もう絶対男にはヤらせねーと誓ったね、おれは」
うんうんと一人納得し頷くサンジに、そこでやっと正気の世界へ帰ってきたゾロは、恐る恐るといった感じで聞いてみた。
「……そいつ、その後どーしたよ」
「あ? あー、おれの部屋の壁が人の形に抜けて、隣のそのまた更に隣の部屋まですっ飛んでってさ、とりあえず全治8か月だったかな。うん、勿論壁の弁償はさせたぜ。そーいや退院後、気付いたら辞めてたなあ。どこ行ったんだろうなー」

……そいつにとっては、苦い思い出どころか、おそらく再起不能まで精神的にも叩きのめされたのではなかろーか…?

ゾロはそう思ったが、目の前の凶事の元凶が、そこで過去に思いを馳せる事を止め、再びゾロの身体を弄り始めた為、慌てて藻掻く。
しかしまたここで、さっきの約束(?)を持ち出され、
「一度言った事を翻すなんて、男らしくねーぞ!」
などと言われて、うっと詰まる。男らしい男を押し倒すのもどうかと思うが(いやそれはそれでかなり男らしいと言えるかもしれないが)。
「が、ガキの頃、道徳で「自分がされて嫌な事は他人にしちゃいけない」と習わなかったか!?」
思わず道徳心に訴えてしまったゾロだが、
「学校行ってねーんだよなー、おれ。ガキの頃から料理の修業一筋ー」
と、これまたあっさりかわされてしまう。その上、
「いい加減にしろよーゾロ。おれとラブホ入った事、他の皆にバラされたい?」
などと言われて絶句する。
「てめーに強引に連れ込まれて、ごーかんされちゃったーって言おうかなー」
「脅迫する気か!?」
強姦してんのはどっちだと叫びたいくらいだ。いや本当。
だけど、無理矢理ではないと自信を持っては言えるものの、一度抱く気になったのは嘘ではないわけで。その点を言われると、はっきりとは否定できないのが困る。
「だからさ、素直にうんって言ってくれれば脅迫にはならないんだけどね。おれだって出来ればもっと相手を大切にしてあげたいんだけど」
しれっと言う言葉を聞きながら、ゾロは「コイツにはもう何言っても無駄だ」という気分になってきてしまった。感覚としては、まさに自暴自棄。
「それにさ、おれは痛かったし入らなかったけど、アンタ痛いの好きそーじゃん」
「好きじゃねええ!!!!!!」
「そうか? まあでも、痛いの我慢するのも得意そうだし」
まあなるべく痛くしねーよう優しくするから、などと真上から結構真面目に言われたりして。
ゾロは投げやりな気分で、とうとう抵抗を止めた。
自分にとっては切実な抵抗とかやり取りも、どうもハタから冷静に分析すると、漫才じみてる気がしてならないし。目の前の男は、我侭三昧無茶苦茶三昧で引くつもりもないようだし。

「一度きりって言ったからには、一度だけだからな!」

開き直った感のあるゾロの言葉に、サンジは嬉しそうに「はいはい」と頷いて行動を開始した。



サンジの言うとおり、確かに「Bまではまあイイ」感じだった。
むしろ、はっきりと快楽を感じてしまっていたともいえる。
前戯として触れられる感触は、自分が受ける側という違和感は拭えないものの、性感帯を弄られれば、やはり神経はそれを快感と捉えてしまうわけで。
サンジは自分で自慢するだけあって、的確にゾロのイイ箇所を探り当てて刺激してくるし。
唇を噛み締めているゾロから、思わず何度か声が漏れたくらいだ。
身体をまさぐったり、唇を触れ合わせる行為に、お互いの吐息が荒くなる。
何だかんだと文句を言っていたゾロも、熱に浮かされたように、次第にこの行為を受け入れて行った。
サンジが顔を寄せれば、目を閉じてその唇を待つし、舌で口腔を探れば、若干躊躇いながらも自分の舌を絡めてくる。
「意外と慣れてんじゃねーか」
と、サンジがからかうように語りかける言葉に、「相手は今まで女ばっかだったけどな」と、少し情けない気分で考える。
そこへ、突然身体を引っくり返され、ベッドにうつ伏せにされた。
「うわ………」
背中に唇の感触。そのままツーッと舌先でなぞられて、擽ったさのあまりゾロは思わず逃げをうった。
「こらこら逃げんな。こっちには傷ひとつねーと思ったら、感じ易すぎて誰にも触れさせなかったってか」
「ちげーよ!!」
しみじみ言うサンジの言葉に、ゾロは怒鳴って反論するが
「…あ…ッ」
首筋をきつく吸われながら、指先で背筋を辿られると、小さく喘ぎが零れてしまった。
「だってこンなに感じ易いじゃねーかよ、やっぱ」
ついでに、背後からゾロの足の間に割り入れてた腿を突き上げ、背中への愛撫に反応して益々張り詰めたモノへと触れさせる。
びくびく反応するソレを触れた足に感じて、サンジは笑いを含んだ声で言う。違うも何も、カラダは正直なのにねー、と。
そして、そろそろ頃合だと踏んだサンジが、耳元で囁いた。

「じゃそろそろ、本番行こーか」

テレビ番組の収録の、リハから本番へと変わる時のような気軽な言葉ではあるが、ゾロにとっては死刑執行の宣言に等しい。
待て、という間も無く、指が挿し込まれた。
「ぎゃーーー!!;;;;;」
「……い、色気ねェな……」
指入れてそんな声出されたの初めてだとサンジは言うが、ゾロにとってはそんな箇所に指を入れられた事なんぞが初めてなのだ。色気ある声なんか出るかーと文句を言う。
ちなみに、サンジの指は、先程買ったローションを塗りたくってあったので、痛みはあまり無い。
だが、感触の気色悪さはどうしようもなくて、やめろと情けない声を上げるが。
「だって慣らさねーと、カナリ痛いよ? 経験者は語るぜ?」
「いいっ、痛かろーとこんなんよりマシだっっ! さっさと終わらせろ!!」
「ダメ。痛い思いあんまりさせたくないし」
一言で却下し、一気に3本の指を挿し入れる。
「ぐわーーーーーー;;;;;;」
これまた色気のカケラも無い悲鳴が上がる。思わずサンジが「せめてア行の声出せ」と命令してしまったくらい、ガ行濁音系だらけの「うぎゃー」とか「ぐえー」とか、そういうカンジで。
「萎える…」
「いっそ萎えて一生勃たねーでくれ…」
「この若さでインポにしねーでくれよ。ああもう……これでどうだ?」
前後に動かしてたり、中で広げていたりした指を、折り曲げて体内を探る。

「……ぁ!」

そこで漸く、サンジご希望のア行の声が漏れた。
「あ、いい声。ココかあ」
嬉しそうに背後で呟くサンジの声も届いてはいたが、ゾロはそれどころではなかった。
(何…………;)
探り当てた前立腺を、サンジが指先で何度も擦っているのだが、ゾロは何をされてるのかがよく判らない。ただ、身体が反応し絶頂が間近に近づくのを呆然と感じていた。
「ん………ッう、」
「辛そうだな。一回抜くか」
そのセリフに、指を抜かれるのかと思ったゾロは、若干身体の力を抜いたが。
「……あぅっ…」
指を益々強く動かされ、その上空いてる方のサンジの手が、昂ぶった自身にまで伸びてきて触れられ、堪えきれず身体を支えていた肘が折れてベッドに突っ伏してしまった。
サンジの言うのは「一回イっとくか」という意味だった事に、今更気付いた。
体内と前を同時に激しく刺激され、何も考えられなくなる。
「は…………!」
指を限界まで深く侵入され、前を強く扱かれた瞬間、身体中の筋肉を強張らせたゾロは、サンジの手の中で絶頂を迎えていた。

 

「さてこっから、おれも本番v」

楽しげにそう言ったサンジがベッドの脇に用意していたコンドームの袋を破り、ゴムを昂ぶった自身の根元まで、するすると引き降ろして装着するのを、うつ伏せにベッドの上で脱力していたゾロはぼんやり見ていた。
標準よりは確実に上だろうサイズを見て、そんなん入るのかよ;と心の中で泣き言を言ってみるが、悔しいし何だか情けないから言葉には出さない。
ゴムの上から何やら塗りたくるのを見て、「それは何だ」と問うと、
「さっき指入れた時にもつけてたんだけど。ローションだよ」
という答えが返ってきた。
「女の子でも濡れにくい子っているからな。こーゆーの使って、滑りを良くするわけ」
一応気を使われているらしい。別に嬉しかないけど。
などと考えていると、背後から再びサンジが圧し掛かってきた。

「力抜いとけよ。んで、痛かったら言えよ」
「言ったら止めるのか?」
「スピード落とす」
「……………………」

反論する気も失せて、ゾロは枕に顔を埋め、言われた通り力を抜いた。

 



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