「思ったより広かったなー、温泉」

 

熱海といえば、温泉地。
二人の滞在先の旅館も、なかなか立派な露天風呂があり、今まで堪能してきたところである。
何だかかんだで今日一日、結構あちこちを周り、忙しかった。ようやく温泉でのんびりと疲れを癒し、今は部屋に戻り、備え付けの浴衣に着替えたばかり。
まったりと部屋で寛いでいる最中だった。

「ただあれだな、ちょっと混んでたよな」
サンジの言葉は少し不満げだが、混んでいるのはしょうがない。
今は夏、熱海は観光シーズン真っ盛りで。旅館だって全部屋埋まってる大盛況ぶりなのだ。
全員共同の露天風呂など、掃除の時間以外は、誰かしら人が入っていてもおかしくない。
ましてや二人が入っていたのは、夜10時過ぎ。一番混む時間は過ぎてはいるが、寝る前に湯に浸かろうというご年配の温泉好きさんやら、夜型の若者たちが飛び込んで来たりする夜半前。
「貸し切りできたらいいのに」
「無茶言うなよ……」
呆れてゾロが言う。
広い温泉だけあって、別に不満に思うほど人がぎゅうぎゅう入ってた訳でもなし。シャワーか空くのを少し待ったりした位で、結構ゆったり入れただろうとゾロが言うと。
「だってさ、人いるとお前、べたべたさしてくんないじゃん」
「アホか……」
「露天風呂で…v っての、夢だったんだけどーなーあー」
奥さんの言い分に、今度は無言で「コイツ馬鹿決定」という視線を向けた旦那さんは、お馬鹿な会話を打ち切って、テレビのリモコンを付ける。
温泉に浸かってるうちに深夜枠に突入したテレビ番組は、地方色がゴールデンタイムよりも顕著になる。
チャンネルを次々変えていると、知らない店の宣伝やら、自分の住んでいる地域では、この曜日にやっていない筈の番組が放映されていたりで、少し新鮮な気持でテレビを見れたりする…が。
テレビに現実逃避してる自分を感じ、旦那さんはちょっと情けない気分だったりする。

何というか、部屋の空気が辛い。

仲居さんの手によって、既に布団がふたつ敷かれた部屋が、日本的な情緒の装飾と相俟って、何だか変な雰囲気を醸し出してる状況なのだ。
なーんとなく、間が持たない。
騒がしい番組は好きではないけれど、つい賑やかな番組にチャンネルを合わせてしまう。
「…面白い?」
画面には、若手の芸人のコント番組が映っている。普段、ニュースとスポーツとN○K特集を見てる位の、かなりオヤジな趣味の旦那さんが、珍しく変わった番組を見てるので、奥さんは興味を引かれて聞いてみた。
「いや…何が何だかわからん。こいつら誰だ」
「…それってあんまり見てる意味なくない?」
「ほっとけ」
呟いた瞬間。

「!」

部屋の電気が消えた。停電などではなく、サンジがスイッチを切ったのだ。
テレビが付いているから、真っ暗ではないが。
「サンジ、暗いだろ。つけろよ」
「まあそう言わず。テレビもろくに見ちゃいねんだろ。消せよ」
言いながら何かを投げた。
反射神経は抜群の旦那さんは、薄暗い視界も物ともせずに、飛んできた何かを受け取る。
「あぶねーだろ」
全然危機感を感じない、呆れるようなその言葉に、笑いを含んだ声が返って来る。
「お前が受け取り損ねるわきゃねーだろ。それを」
手の中を見ると、ワンカップの安酒が収まっていて。思わずゾロは苦笑する。
「情緒ねーの」
「お前が情緒とか言えるタマかよ。それとも何か? シャンパンでも片手に、君の瞳に乾杯★とでも言ってほしかったか?」
「心底いらねェ」
「ここじゃ俺がツマミ作ってやれねーのが難点だが。あ、秘宝館で買った菓子食うか?」
「……それもいらん……」
形が卑猥な菓子など食う気はしない。そもそも甘い物などつまみにならない。
カップの蓋を開け、酒を呑む。安酒の独特な苦味が舌に残るが、悪い感じではない。
しばらくして、サンジがゾロの隣に腰を下ろし、テレビのリモコンを奪った。
そのままスイッチを切る。
いきなり訪れる沈黙。
人工的な明るさが全て消えた部屋は、障子から漏れる月の光の明るさで、それほど暗くはなかった。

 

遠くの方で、たまに車の音が聞こえるくらいの静寂。

酒のカップは気付いたらもう空だ。間がもたない。

 

会話を続けられず、内心おたおたしているゾロに、サンジがぴたーっとくっついてきた。
「まーそんな緊張すんなよー。今更じゃんかー」
「緊張なんか…」
慌てて反論しかけるゾロの肩に頭を乗せ、笑いかける。
「二人で旅行で泊まるって初めてだもんな。俺はちょっとこの雰囲気緊張してんだけど」

別にこの二人、新婚旅行といっても初夜な訳ではないけれど。
仕事や季節やもろもろの事情で、式の直後に旅行は出来ず、現在既に新婚2ヶ月目。初夜なぞとっくの昔だ。そもそも結婚する前だって半同棲状態で、清い関係どころではなかった二人だ。

だけど、家とはあまりに雰囲気が違う。

「でもこういうのもいいな」

言い様、サンジがゆっくりと接吻けてきた。
「ん…」
軽く啄ばむキスは、舌先で唇を辿り、口腔に侵入し深くなる。
サンジの舌に、上顎をなぞられると、擽ったさにゾロが身じろぎした。
構わずサンジはその背に柔らかく腕を回し、そのまま布団へと倒した。
体勢が変わったせいで、唇が少し離れる。そのままゾロの首筋に顔を埋めると、今度もまた擽ったそうに息を震わせた。
それを無視してそのまま吸い続けていると、「髪と髭が擽ってぇから離れろ」と不満の声がゾロからあがった。
「…こーゆー時は喘ぎ声とか、せめてカワイク「やめてv」とか言ってほしいねー。色気ねェの」
「そんなもんあるか」
旦那様からお怒りの声が上がるが。首筋から顔を離し、上からゾロを見下ろしたサンジが。一瞬ゾロの全身に舐めるように視線を這わし、
「前言撤回。やっぱ色気あるわ。てゆかありまくり?」
嬉しそうにそんな事を言い出す。
「浴衣…すげーイイな。お前めちゃくちゃ似合う。脱がせるの勿体ねーな」
などと言って、帯を少し引き下げて緩め、軽く襟をはだける。
「すげーv こーゆーの、大好きvv」
「お前なあ……;」
また出たよ、コイツのマニアック趣味………; と、旦那様呆れまくるが。
「いや、お前もおれだったら絶対そー思うって」
など、訳わからん事言って、はだけた浴衣の襟から覗く鎖骨に唇を当てる。
そうしながらも、裾を割ってゾロの足の間へと身体を割り込ませ、空いてる手で、腿を指先で辿り、刺激を与え始める。
「っ……、だから、擽ってーって……」
「じゃあ直接こっちがいい?」
割った裾から手を滑り込ませ、直接下肢に触れる。布越しのその刺激にも、ゾロの身体が跳ねた。
「ほんと、浴衣っていーね。すげえ触りやすい」
軽く触れ、ゆるゆると辿る指が、時々強く押しつけられる。不規則な動きを予測する事が出来ず、ゾロが強く触れられる度に身体を強張らせ反応する。
「固くなんの早いね。今日やたら擽ったがりさんだし。いつもよか敏感になってるみたいだな」
布越しの僅かな刺激で、完全に反応しているのを、サンジが楽しそうに指摘する。その台詞にいたたまれず、顔を真っ赤にしてゾロがソッポ向く。
そんなゾロの様子に、楽しげに声を出さずに笑ったサンジの手が、下着を引き降ろして、直接そこに触れる。
「もうほら、ここも濡れ濡……うぎっっ」
最後の「うぎ」は、言葉攻プレイに突入しそーなサンジの台詞を止めるため、ゾロがその頭を思いきり叩いたせいで漏れた声であるちなみに。
「うるさい黙れ。やるならやるで静かにやれ」
「えーつまんねぇよーお前言葉にも反応するから面白いのに…」
その言葉に、旦那さんのお怒りモードは更に上がり、額に青筋が浮かぶ。
これはヤバイと思った奥さん、しょうがないので妥協する事にした。
「判ったよ、そのかしお前は声殺すなよ」

 

 

「……う………く、」
侵入してくる異物に、食いしばった歯の間から声が漏れる。
「……痛い? まだ無理か?」
頭上から聞こえる、気遣う声。少し目を開けると、揶揄う素振りも全く無い真剣な表情を伺う事が出来た。
さっき喋るなと言ったのは自分だけど、こういう言葉や態度は何だか嬉しいもんだなと思う。
腰を引こうとしたサンジの肩に手を伸ばして引き寄せ、首を横に振る。
圧迫する痛みも、身体は慣れる事を知っている。
「……ッ」
抱き寄せられたサンジが、身体を密着させながら、ゾロの足を折り曲げて更に深く侵入してくる。
「悪ィ、やっぱ遠慮してる余裕ねーかも…」
サンジのその言葉に、頭の中では「てめーが遠慮なんてするタマか、ガラにもねー事言ってんな」と返事が浮かぶが、言葉にはならなさそうなので、背に回した腕に力を込めた。
多分これで通じるだろう。悔しいけど。
案の定、含み笑いの気配がする。
「素直じゃないけど素直だよな。おれ、お前のそーゆー所好きだぜ」
言いながら、腰を押し付けて奥を突く。
「ぅあ…っ……」
大きく反応した自分の身体がまた悔しくて、ゾロは縋った背に爪を立てた。

 

 

 

大きくはだけた浴衣を引き摺り、サンジが立ち上がる。
しばらくして、月の光のみに照らされていた薄暗い部屋に、明かりが点いた。
「ゾロ、ビールとかあるけど、何か飲む?」
電気のスイッチを入れたサンジは、部屋に備え付けの冷蔵庫へと屈み込み、そう声をかけた。
が、しかし。返事が無い。
「ゾロ?」
振り向くと、先程まで布団の上で荒い息をついていたゾロが、そのまま眠り込んでいた。
「おいおい、風邪引くぞ……てゆか、後始末とかしなくていいのかよ」
遠慮してる余裕無いとの言葉通り、結構無茶してしまった自覚あるサンジは少し悪いなと思いつつ、起こそうと近づく。

 

しかし。

「……………………」
(これってもしかして、チャンス?)

サンジの頭に、とある企みが浮かぶ。はっきり言って、悪魔の企みが。

近づいても、ゾロは起きる気配を見せない。

「さっきさー、秘宝館でさ、買うなってお前に言われたけど」
布団の片隅に放り出されていた、ゾロの浴衣の帯を拾う。先程、行為の最中にサンジが解いて、投げ出した物だ。
「やっぱさー折角だし、買っちゃったんだよねー」
旦那さんを残して、一度館内へ引き返した時。いわゆるひとつのお道具って代物を、こっそりと買ってしまっていたのだ。
「別に騙したわけじゃなくてー言わなかっただけだぜ♪」
あまり罪悪感を感じさせないような声音だが、ゾロが起きてたら、そのお怒りモードはMAXに達したのではなかろーか。
しかしゾロは未だ眠りの国の住人状態で。
投げ出されているその両腕をそっと取り、サンジが帯を巻きつける。

「………ぅ」

ぎゅっと縛った感触に、さすがに気付いたのか、ゾロが小さく呻いた。
「………ンジ…?」
何が起こってるのかまだよく判っていない、寝ぼけた声。表情も寝起きのせいか、いつもからは考えられない程幼くて、何だか可愛い。
「ま、あとで殴られるくらいは覚悟してるからなv」
かばんの中に隠し持っていた「ソレ」を出し、にっこりと笑顔をゾロに向ける。
「な………!」
「ソレ」を認識し、自分の両腕を背中で戒められている事に気付いたゾロが、瞬時に真っ青になり慌てる。
「サンジ!!てめ、何を……!!」
ぎっと睨んできた。当たり前だが、完全に怒っている。
だけど、サンジには判っている。自分がどんな無茶な事をしても、わがままを言っても、結局は最後には許すのだ、この男は。
そうでなきゃ、こうしてこんな風に、自分の物に出来ている筈もない。

 

そして最後には必ずこう言う。
「結局許しちゃうんだから、お前俺の事好きなんだよ」
その甘さと優しさに浸け込んでいる気はするけれど、そういう事だと思う。
ゾロが自覚していないなら、ちゃんと自覚させたい。
(…とりあえず、身体には素直になってもらおうかねvv)

 

 

 

まだまだ夜は長い。
果たして旦那さんは次の日ちゃんと起きられるのかどうか(合掌)。

 

(終わり?)


続きは一応あるのですが、お道具編で
ヤってるだけです; 大丈夫な18歳以上の方はどうぞー。
秘宝館、昔行った事あるので、記憶を元に色々
書きましたが、どーやらその後改装されてるらしい
ので、今のとは全然違うかもしれませんですハイ。


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