1 【いつでもどこでも】
2 【呼称】
「マジック総帥」
それが今の呼称。弟達以外は皆、僕をそう呼んでいる。
「実名」には「階級名」が必ず付随する。階級名のみ、または敬称で呼ばれる事も多い。
今は慣れた。偉大な父のものだった「総帥」という名称にも。
その座についた当初は、やはり違和感が拭えなかったが。
違和感と共に、個を失うかのような不安も心のどこかにあったように思う。
団員も、それ以外の者達も。
家族を除いて、自分と関わる人間が求めるのは「総帥という地位と、その座に値する力を持つ者」だった。
その地位にいなければ僕など目にも留めないだろう人々が、傅き崇めたり、逆に疎んで排除を目論んだりしている。
良くも悪くも集中する視線。それは、僕の持つ総帥という名称に因るものだ。
大事なのは、個人ではない。
───そしてもう、僕を名のみで呼ぶ者はいない。
父さんだけが、僕を名前で呼んでいた。
「どうしたの、マジック」
「……何でもない」
過去に思いを巡らせていると、肩に手を置かれ問いかけられた。
視線を上げれば、最近任命した風変わりな補佐官の笑顔が目に映る。
…少し前までは、もう呼ばれる事はないと思っていたのに。
父が名づけ、父だけが呼んでいたその名前。それを出会い頭から、いとも簡単に口にした男。
何故あの時拒絶しなかったのだろうと、疑問に思う。
けれど今では、その声で呼ばれる事に嬉しさすら感じている。
どうしてだろう。
「何か心配ごとでも?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「僕は君が誰より大切なんだから。何でも言ってほしいんだよ、マジック」
耳に染み込む己の名の響き。向けられる視線。触れる体温。
それにより、求められているのは「僕自身」なのだと───そう信じられるからだろうか。
かぎかっこが多いー…
大人だらけの中で張り詰めてる、誰も信じようとしてないおこさまを篭絡するのは結構簡単そうだーと、この二人の出会い見て思ったのでし太。
3 【口ごたえ】
先程から押し問答は続いていた。
「だから、その仕事は今日中に終わらせたいんだって言ってるんだ!」
「これ、すぐに終わるものじゃないだろう。ただでさえ少ない睡眠時間を更に減らす気かい、マジック?」
「おまえが来る前は、もっと少ない睡眠でも平気でやってたッ」
「…ああもう、どうしてそう口ごたえが多いかな」
それが部下の台詞か、と凄んでも相手は怯む気配も無い。
全く。
口ごたえしているのはどっちだ、と。
そう思わず呟くと、ふいに顔が近づいて。
「こっちの口だろう?」
笑顔でそんな事を言う男の唇に、言葉を塞がれた。
「口ごたえ」を封じる術を知り尽くされている事が悔しいが、こうなるともう黙るしかなかった。
4 【何様?】
5 【我慢、我慢、我慢】
「こんにちは、マジックくん!」
初めて、本物の君に対してかけた言葉。
その視線は不審と戸惑いの感情をあからさまに含んでいたけれど、確かに僕だけへと向けられていて、それだけで心臓が高鳴った。
ずっと、遠くからその存在を見つめ続けていた。
あまりに大きな距離が僕達の間にはあって、絶対この声も、この手も、君に届く事はないと思っていたのに。
補佐官に任命され、今こうして目の前にいる。肩に触れる事も、驚く程簡単に出来た。
思ったより細い肩からは確かに温もりを感じられて、今目の前にいるのは本当に血の通う人間なのだと信じられる。
映像でも、夢でもなく。
そんな事実に、何故か震える程に感動していた。
もう少し腕を伸ばせば、抱き締める事だって出来そうだ────なんて考えるが。
あまりに急激に近づいた距離に、更に欲を出すなって方が無理だと思うんだけれど、今は我慢。
急ぐことはない。
君と家族との、その小さな暖かい空間へ入れてもらうことが出来れば、まずは上出来。
世界いちのストーカーさんがじわじわと(笑)
いやでも元から世界一の凄腕ストーカーだったのか、少年総帥さんに近づいてから世界一に進化したのか…その辺不明です。
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