きっかけは、どちらの視線だったか。 ふと気付いた。視線がいつの頃からか、よく絡まる事に。 あいつの視線は最初のうちは、合う度に苦々しげに逸らされていたが、いつの頃からか、逸らす度に、少し切なげに眉を寄せるようになり、それが更に繰り返されていくうちに。 目を、逸らさなくなった。 こうなると、照れて逸らすのはおれの方。負けてるようで何か悔しい。 なあ、もしかしてお前おれに惚れてる? で、気付くとその視線を感じて鼓動が高鳴ってる、おれは? 「サンジ」 深夜のキッチンにヤツが入ってきた時、おれは反射的に「ヤベェ!」と思っていた。 何がヤバイのか、自分でもよく判ってなかったけど。 ああでもヤバイよ。何いきなり滅多に呼ばない、おれの名前呼んでンだよ。 「あんだよ」 背を向けて皿なんか片付けて。視線は向けない。 「こっち向けよ」 話がある、と。 そう言われて向かないわけにいかなくて、皿を置いて身体を反転させる。 キッチンのシンクにもたれて、咥え煙草のまま向けた視線の先には、緑のマリモなクソ剣士。 こりゃ、とうとうキたな、なんて思う。 最近の危ういバランス。絡む視線は余程、口より気持ちを代弁していた。 案の定。 「お前が好きだ」 とうとう言われた。 迷いもなく、いっそ清々しい程堂々と言われた事に驚く。ちょっと待て、言われたおれの方が余程動揺して慌ててるってのはどーいうこった。 「……………」 「誤解するなよ、だからってお前に、おれを同じように思えとか言ってるんじゃない。聞かなかった事にしたいなら、そうしてもいい。ただ伝えたかっただけだし」 「え?」 なんだよそれ…… 「おれが言いたかったから言った。こーゆーのを隠してるのは性に合わねぇ。そんだけだ」 口に出せてスッキリしたなんて、これまた清々しい表情で言われてしまう。 …ええと。 どうしようかと石化していたおれを置いて、「じゃあな」と、話は終わったとばかりにキッチンを出ていこうとしたマリモを、慌てて引きとめてしまった。 咥えていたタバコをシンクの水で消し、捨てながら呼び止め、その腕を引く。 「ちょっと待てって! 一人で勝手に完結すんな!!」 普通はさ、こういう禁断な告白(男同士だぞ何てったって)は、もっと後ろ暗い感じに、悲壮感なんぞ漂わせつつスルもんじゃねーのか? だからこそ、一部の倒錯の世界を愛する女の子達に、「許されない愛ってイイわv」なんて萌えられてしまったりするんだろーが。 それがだ。 キッパリと、アッサリと、堂々と宣言され、「じゃあな」はねーだろ!? ここ数日、その視線に翻弄されて、ちょっと妖しげで禁断チックな雰囲気にドキドキと浸っていたおれの立場はどーなる!!?? 好きだって言われて、息苦しい程に心臓が跳ねたおれの立場は……; 「サンジ?」 今度はゾロが、おれの方を驚いたように見てる。 「せ、せめて返事を聞けよ!!」 「…つっても。返事も何もねーだろ。テメェ女好きだし、返事って言ったら断るだけだろーが。判ってるのをイチイチ聞く必要はねェ」 実直な性格は「単純馬鹿」と表記すべきだな。潔いけど根性が足りねーんじゃないか、それはちょっと。 おれなら絶対、禁断だろーが相手がおれに惚れてなかろーが、振り向かせる為に足掻くのに。 「てめ、片想いの相手と両想いになりたくねーのか!?」 「は? そりゃなれたら嬉しいけど、なれるわけなかろーが」 「わからねェだろーが!! ちっとは根性見せろ!!!」 「落ちつけよサンジ」 な、何で告白されたおれが、告白してきた相手に宥められねばならんのか…。 「判った。ちゃんと返事聞けばいいんだろーが。ああもう、さっさと返事寄越せ」 肩をすくめて促したゾロは、とてもじゃねーが「片想いの相手に告白し、返事を待つ」というシチュエーションの緊張感が無い。 クソ生意気な…。 断られるという結果しか考えてねーな。 そうは行くか。 「おれも好きだ!」 どーん、と。擬音を背景に入れるかのごとく宣言する。 途端、ゾロの目が見開かれた。半開きのまま閉じ忘れている口元が、驚きを表してて心地よい。 ザマーミロ。 「これで両想いだなv」 と、笑顔で言ってやった。 「…あ? でもテメェ、ナミが…………」 予想外の答えにぱくぱく口を動かし、喘ぐように言葉を紡ぐ。述語は無いが、言いたい事は判るぞ。 「そーだ、天下無敵のフェミニストにしてナンパ師のこのおれが! お前を好きになったって言ってんだ。参ったか」 …最後の一言は、おかしいかも。自分で言っといて何だが。 「自慢する事じゃねーだろ…」 案の定、呆れたようにゾロが呟く。 まあそれはともかく。 「本気かよ」 まだ信じられないというように問うゾロに、おれはきっぱりと頷く。 「何で………」 何でなんて知るか、視線向けられてるうちに段々意識しちまって、向けられる想いも全然気持ち悪くなんかなくて、むしろ嬉しいなんて思いながらドキドキしてたんだから。 ほんと、いつのまにかだ。 そう答えを返したら、驚いたように見返され、やっとここでおれの言葉を完全に信じたのか、次の瞬間その頬がぱぁっと赤くなったりして。あ、可愛いかもなんて思ってしまった。 可愛いなんて形容詞、全然似合わねぇのにな。これぞ恋するマジックか。 思わず、その頬に手を伸ばす。 指先で触れてみた赤い頬は熱くて、思いの他柔らかかった。 「なあ、テメェは? 何でおれの事好きなの?」 頬を柔らかく撫でながら問う。 「…わかんねー…。何か、気付いたら、だ」 戸惑うようなその答えは、おれと同じもので。 「何だか目が勝手に行く。それに気付いて、最初忌々しいと思ってたけど、お前に逸らされると、ちっと辛い事にも気付いた」 そして自覚したのは、今日になってだという。…遅いんじゃねーか? おれはもう何日もドキドキと翻弄されてたっつーに…。鈍いというか。 で、気付いたその日に告白か? 猪突猛進だなあオイ。テメーらしい気もするが。 そんな事を思ってたら、目の前のマリモが、おれの頬を撫でる手首を掴んだ。 「…了承したのはお前だぞ」 あ、カッコイイ……/// じゃなくて! 真剣な表情で、近づく顔に少し焦る。その視線に気圧され見とれてる自分の溶けかけた感情を、慌てて立て直す。 立場的にヤバ気なの感じたんで、キスされる直前の唇から、呼びかけてみた。 「あ、あのさあ、テメェってさあ、男同士でよくこーゆー事すんの?」 「あ? 男なんかに惚れたの、お前が初めてだが…」 不自然なくらい近づいた顔同士で喋る。 …おれなら問答無用で唇塞ぐけどな、ここまで近づいてたら。ちゃんと返事するとは、全く律儀な奴だ。 そこへ、今度はおれの方が素早く動き、圧し掛かるように唇を奪う。 うん、やっぱリードする方が性に合うな、などと思いながら、マリモの後頭部を掌で押さえながら、深くその口腔を侵していく。 舌まで絡められるとは思ってなかったのか、ゾロがじたばたし始めた。 ち、さすがにコイツに暴れられると、おれの腕力じゃ押さえ込めない。 …てコトは。 もしかして、いざこのまま両思いで一歩先の関係に進む時って……… おれが下か!? 力で負けてんだから。ずるずるとそんな立場になってしまいそーな………。 それはちょっと待ってくれ、だ。 暴れられてしまったので唇を離した瞬間、そんな考えが頭を過ぎった。 好きになったのは本当だ。だけど、ヤられるよりはヤる方が……。 でもコイツに押し倒されたら敵わねぇ。 だったら。 「ゾロ、知ってるか?」 「…何を?」 接吻けの余韻に、真っ赤になって荒い息継ぎしてるゾロが、少し掠れた返事を寄越す。 ああ、そンな様子もやっぱ可愛いな……。ヤったら、これ以上可愛い様子で照れたりすんだろーか。それは見てみたい。 その為には、おれが押し倒されるわけにはいかねーんだ!!! 「男同士の場合ってさ、先に告白した方が「ヤられる側」になんなきゃいけねーんだぜ」 にっこりとそんな事言ってみたりして。 「ええっ、マジか!?;」 …やっぱテメ、おれの事ヤる気だったな……。狼狽したゾロに、「先手打って良かった」などと考える。 「マジ。男どーしの世界では約束ごとなんだぜ」 てゆか、嘘八百に決まってんだろ、そんなの……。そンな約束あるわけない。 騙される方が悪い。単純馬鹿だ、やっぱり。 「てなわけで、おとなしく抱かれろよな?」 また、にっこりと。惚れた相手の極上スマイルに、相手が弱いだろう事も見越して。 抵抗出来ないその身体を押し倒した。 お前忘れているだろうけど、さっき日付が変わった今日は、エイプリル・フール。 嘘をついても許される日。 想いはお互い、ちゃんと「本当」なんだから、こんくらいの嘘は可愛いモンだろ? 余韻に熱くなってる身体を抱き締め、囁く愛の言葉は、これ以上無いくらいの真摯な真実。 |
2002/4/2UP。
4/1、ウソップお誕生日おめでとうー!
登場させられなくてごめんよー;;
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