「ちょっと待てー!!!」

扉を開けて、コイツを炬燵へ入れてやって。
とにかく暖まれと言った。そしたら。
「じゃあ遠慮無く」
と、にっこり笑って、次の瞬間押し倒されていた。

待て待て待て待て待てー!!!!!

思わず隣の部屋にまで響きそうな(隣は彼女持ちの独身男だから、今夜は留守のようだが)声で制止するが。
「やっぱ駄目か?」
なんて、上から甘えるような声で聞いてきやがる。
駄目か、って当然だろーが!!
何考えてやがる。告白の後行き成り押し倒すか普通!?
それも、コイツにとっておれは「他に好きな相手がいる片想いの人間」の筈だ、今は。
どーゆー頭してんだ一体!?
「心が寒いんで、あっためて……ってのはダメか?」
「阿呆!!」
怒鳴りつけてやったら。
「おれはおれなりに、お前におれの事で頭がいっぱいになるようにしたいわけよ」
真剣な顔で、そう言いやがった。

「今は他の誰か好きでもいいぜ。でも、その内おれの事しか考えらんないようにするから。…全部奪ってやる」
「サン……」

言葉を失う。
独占欲とか言ってたけど、こんなにそれが強いとは思わなかった。
驚きで、二の句が告げず固まってるおれに、再び接吻けてくる。
今度は、突き飛ばす事も出来なかった。
押さえられている手首のせいだけじゃない。
「…ぅ……」
一旦離れて、斜めから角度を深くして合わされた唇に、今度は物理的に言葉を奪われる。
舌が絡まり、吸われる。サンジの舌が蠢く度に、ぴちゃっという水音が漏れる。

 

ここでまた突き放せば、殴り飛ばせば、サンジは今日はこれ以上の事はしないだろう。
強引だけれど、最終的に引く場所は心得ている奴だし。だから、別れた女達とも、修羅場などは演じた事がない。
ここで強く制止すればいい。それでとりあえずは逃れられる。
そうは思うのだけど。
なのに、うまく動けない。思考と行動がどうも一致しない。

────駄目だ。

おれの対応を伺うように、唇だけを慎重に重ねていたサンジが、次の行動に移り始めた。
抵抗が無い事を察知したからだろう。
細い指が、服の上から身体を探ってくる。
「ゾロ」
耳元で、名を呼ぶ。それだけで身体が震えた。
「お前が、単に情に流されやすいからおれを許すんだってのは判ってるけど。脈アリって取るからな、これ…」
違う、バカ、そうじゃねぇ。
情に流されるだけで、こんなん許すとでも思ってるのかテメェは。


こんな事になるなんて、考えなかった。
コイツが好きだ。それは前から自覚していた。
だけど、こういう事はあまり考えてなかった。抱くとか抱かれるとか。
触れたいという感覚はなかった訳じゃないが、落ち込んでるコイツの頭を撫でくり回してやりてえとか、肩に腕回してえとか、そーいうカンジで…って、小動物に対する行動と変わんねーな…。
恋心つってもやっぱ、基盤が保護本能なんだな…。
なのに、イザこうなるとやはり身体が反応する。
熱くなり始めるのが忌々しい。考えてなかったつもりで、どこかで望んでいたのかなんてつい思ってしまう。
触れられてこんなにも簡単に陥落するのが、情けない。
畜生。
…つか、コイツ手馴れてやがる、やっぱり…。
服を脱がせるタイミングも、途切れない愛撫も。ただでさえ混乱している思考を更に熱くぐちゃぐちゃにさせて、受け入れさせる。
こーゆーのを百戦錬磨とか手練手管とか言うのかなどと、妙な所で感心しそうだ。
心ごとコイツに、好きなように弄られて捏ね繰り回されて。
「あ……ぅ、…」
変な声が出るのすら止められない。

『最悪だ』

この単語、頭の中で今日何度出てきた事やら……。

 

 

「い、つゥ、……痛ぇ…って、…やめ…!」
でも流石に、挿入れられるのは熱に浮かされた身体でも辛かった。泣き言のような言葉を思わず吐いてしまう。
身体を上にずらしながら、サンジの身体を腕で押して止めさせようと試みるが、そこでまた柔らかく唇を重ねられたり、中心を愛撫されたりして力が抜ける。
かなりの時間をかけて、サンジのが全部収まる頃には、お互い汗だくになっていた。
こうまでして繋がるのが、滑稽だとも思う反面、どっかに満足感があるのがおかしい。思わず笑ってしまいそーだ、場面にそぐわない事この上無いが。
ああ、動くな馬鹿…息も整ってねーのに。肺のあたりが苦しくてしょうがねえ。
胸を喘がせて酸素を求めるが、荒く浅い息継ぎしか出来ず、苦しさは変わらない。朦朧としてきた頭に、この振動は更に辛い。
苦しさのあまり、目の前の身体に縋りつく。引き寄せると、サンジの呼吸も酷い乱れ方なのが判った。
「…ゾロ…」
緩く動きながら、乱れた呼吸のまま喘ぐように呼ばれる。
目を開けて、間近にある、自分で引き寄せた相手の顔を見る。
「……な、おれさ、待つけどさ…、早くおれの事好きになれよな」
馬鹿か。
そんな哀しそうな、痛いような表情すんな。
どーしよーも無い馬鹿だな…本当に。

「……テメェだ…っ、」

おれの言葉を理解出来ず、「なに?」と問い返される。目の前の果てしない馬鹿野郎に。
今度は耳元ではっきりと。乱れて弾む吐息の下から、必死に。
好きなのは誰かを伝える。

息が乱れて苦しいせいだとか、熱に浮かされてまともな考えが出来ないせいだとか。
いろいろと責任を他になすりつけて、こんな状態のせいで今はいつものおれじゃないと自分自身を納得させて。
全てを吐き出す。

サンジが息を飲むのが判った。

 

いつかコイツが自分で気づくまで、今まで振りまわされた分、楽しく見物してやろうなどとか考えてたっつーのに。
何てこったと思いながらも、目の前であまりにも嬉しそうに、子供のような笑顔を見せる奴にこれで良かった気すらしてくるから、おれも大概甘いんだろう。


 

結局、そのまま暴走して更に好き放題しやがったサンジのせいで、気絶するように眠りに落ち、目覚めたらあちこちが痛んでまともに起きられなかった時は、流石に後悔したが。
寝床からも見える、狭いアパートの台所で、サンジがおれの為に手料理なぞを楽しそうに作っているのを見て、やはりまた「まあいいか」などと思ってしまったのだった。

 


お笑いな続き、完…

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