「おい、ナニそんなに怒ってんだよ」

「…………………」

「鍵開けろよ、とりあえず」

「…………………」

返事がない。相変わらず水音が響くのみ。
…仕方無い。ひと芝居打つか。

「腹いてーんだよ、トイレ使わせろ!!」
ユニットバスだからなあ。マジトイレ行きたい場合、こういう事態は困る。
いや、勿論コレ嘘なんだけど。
「この年で漏らしたらどーしてくれるっ、再起不能だぞ! ウンコタレな恋人で恥かくの、テメーもだぞ!!」
とりあえず喚く。なぁんか、自分でやってても猿芝居だなあと思うが。
「……………………」
あの単純なゾロも、さすがにこんなバレバレな嘘には騙されてくれねーかと思い、諦めて出てくるまで待とうと、その場を離れようとした時。
ドアノブから、ガチャと音がした。
「へ?」
鍵が開いた音に気付き、慌ててノブを回すと、やはり施錠は解かれていて。
簡単に回って開いた。
さっきまでは意気込んで「問いただしてやる!」なんて思っていたが、妙に気後れしておずおずと中に入ると、ゾロはこっちを見向きもせずシャワーを浴びている。
それを見ながら、横に設置されている便座の蓋を下ろし、腰掛けた。
おれの演劇に騙されたってわけ…じゃねーよな、さすがに。
判ってて一応入れてくれたのか。でも、向こうからの言葉は無い。
無言の張り詰めた空気に、ちょっと辟易する。こんなん、原因もわからねぇ喧嘩なんざどーしていいのやら…。

 

「なあ」
「………」
「何そこまで怒ってんの」
「………」
「そりゃさ、イイかどーか聞くなんてのは、確かにちょーっと無神経だったとは思うさ。でも」
「………」
ああ、一人でうだうだ考えてる時は、あんなに強気でいられたのに、何で問いただしたい相手を目の前にすると、こんなに弱気になるかね。
これも一応、惚れた弱みなんだろうか。
「でもさあ、…………ええと、ヨくなかった? ホントは?」
あれ全部演技……んなわきゃねーよなあ…。
「痛かったのか? 身体とか」
返事が無い相手に、頭で疑問纏める余裕もなく、質問かましまくる。
そしたら漸く。

「違う」

と呟く声が、水音に紛れて届いた。

おお!? やっと返事が返ってきた!!
ヤバイ、原因不明の喧嘩中だと言うのに、顔がほころびそーだ。

「よかったとかよくなかったとか、そういう事じゃない。つーか、そんなん相手してて判らないのかお前はと言いたいくらいだ」
いや、バッチリ「よかっただろ」と思うんですが。敢えてそこを相手に認めさせたいウブな男心……いやそうじゃなくて。
そういう事じゃないなら、じゃあ何なんですか??
疑問符を頭の周りにパタパタ飛ばしながら聞くと。
「………ウマイかどーかとか………」
何だか言いよどんでるな。
うまいかどうか? ああそれも言ったな、確か。「おれ、うまいだろー」みたいな事。
ソレが何か???
「……他と比べられるとでも思ってるのか」
「はい?」
スミマセン、何言いたいのかよく判りまセン……。恋人失格だろうか;
「ウマイかどうかなんて、他と比べなけりゃわかんねーだろうが」
相変わらず目線はアサッテで、表情もいまいち判らない。
「テメェは、おれが他の奴にもこんな事させてるとでも言いたいのかと思った」


ざーっと水音が響く中、おれ混乱中。思わず便座の上で「考える人」のポーズを取る。
「…ちっと台詞を整理させてくれ」
おれと違って、寡黙な上、いまいち自分の心情を上手に表現できないコイツの言葉はたまに難解だ。少ないピースをうまく繋ぎ合わせて、パズルを完成させなくちゃ、全体図がよく判らない。
ええと。

※どうやら「ヨかった?」とか、おれが調子に乗って聞いた事が原因ではないらしい。
 (面白くはなかったようだが)
※気に食わなかったのは「うまいだろ」みたいな台詞らしい。

ポイントはソコで。
「ウマイ」かどーかなんて、他の人間のと比べなくちゃ判断できないのに、おれがそんな事を聞いてくるのは「自分が他の人間にも足開くよーな奴だと思われた」と考えた、ってコトか?

そうとりあえず答えを出し、そのまんま言葉にして聞いてみると。
ソッポ向いたまま頷き、呟いた。
「テメェの他になんか……」

 

 

……………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………か

 

かわいーじゃねーか!!!!!/////

 

…ハッ、思わず興奮してしまった。

「ゾロ〜vv」
便座から立ちあがり、目をハートマークにしてほてほてと近づくと、「こっち来んな」とつれなく手払いされる。
「それってさあ、おれ以外にあんな事させねーって事だろー?」
構わず抱き寄せる。服が濡れるが、そんな事は気にならなかった。
「離せ」
眉間に皺寄せて、へばりつくおれを引き離そうとする。そんな顔も真っ赤で可愛い。
「アンタが誰にでもあんなんさせるなんざ、思ってねーよー。そんなツモリじゃなかったんだけどな」
言いながら、湯で濡れたせいだけでない理由で熱を持つ頬に、自分の頬を擦り付ける。
「誤解だ、誤解。いや、おれの言い方も悪かったな、ゴメン」
素直に謝罪の言葉まで出ちまうんだから、我ながら現金なモンだと思うわ。
ほんともー、ダイスキです。困るね。
スリスリと頬ずりなんかしてたら、暴れてたゾロも呆れたように大人しくなった。
「猫みてぇ……」
甘えてくっついて頬摺りなんかしてるおれに、漸く機嫌も直ったのか、苦笑まじりでそんな事を言う。
「そ、にゃんこなの。可愛がってくれよ」
ますます甘えモードに入り、更に強く抱きついて、首筋に顔を埋める。
「コラ! 調子に乗んな……って、ドコ触ってる!!」
さあ、どこでしょう。

そーいや、さっきまでこの身体を、おれ抱いてたんだなよな。目の前のゾロの首筋には、まだ跡が変色もせずに、鮮やかな紅色のまま残っている。
そこをぺろりと舐めると、身体が震えた。

「ゾロ」
「…ンだよ。つか、離れろイイ加減!!」
「も一度したい」
「な…」
目線合わせて、キッパリ言うと、ゾロが真っ赤な顔したまま固まった。
「バカ、テメ、あんだけヤって……」
慌てて反論しようとする唇を塞ぐ。
「…じゃ、入れないから触らせて」
唇を触れ合わせたまま囁くと、ゾロが困ったような表情のままおれを見てる。

甘えられるの弱いね。
そんなだから、上下決める時もおれに負けたり、こういう時におれをツケあげらせたり
すんだよ。

はあ、と大げさな溜息をついて、ゾロが目を閉じた。
それを了承と受け取り、シャワーの栓を締める。
水音が消えた狭い風呂場に、舌を絡める音と漏れるお互いの吐息が、小さく響く。
「…ぁ……」
ゾロの下肢へと手を伸ばし、まだ柔らかいソコを嬲ってみる。掌全体で、袋ごと揉むようにしたら、小さな声が上がった。
手の中のモノも、少しずつ反応を返してくる。
「な……おれのも…」
濡れた服をはだけ、ズボンのジッパーを下ろす。そこへ、おれの肩へかけられていたゾロの手を導くと、素直に指を絡めてきた。
その感触で、すぐに硬くなったおれのモノを、指先で擽るように撫でながら、ゾロが
「…さっきあんなにイったってのに…元気なこったな…」
と、笑いを含んだ声でからかうように言った。
「若いからなー。てゆか、お互いサマだろ?」
若干弾む息を押さえ、返事を返す。その間も、おれの手は悪戯に動き続けていて。
ゾロの前を右手で扱きながら、左手を後ろへと回した。
「!!」
大きく身体が跳ね、逃げようとするが、遅い。
先程の行為の名残で、熱を持つソコへと、シャワーの水に濡れていた指を侵入させる。
「サン……、さ…っき、入れないって…!」
乱れる言葉に、非難の色が混じるが。
「入れねーよ、後始末してやろーと思っただけ」
なンか、中に出したアレって、ちゃんと掻き出さなくちゃヤバイらしーぜ? と、多分コイツは知らないだろう知識を教えてやる。下痢するとか何とか。
「ンなん…シャワー浴びてる間に流れ落ちてきてたっての…!」
「へえ? そーいうのもカンジちゃったりすんの?」
「バカッ…気持ち悪ィだけだ…っ」
でも中を探られるのはイイみてーだな。
今どんなカオしてるか判ってる?
面白くて、中をぐちゃぐちゃにしながら前を弄ると、ゾロが悔しそうに、おれのモノを嬲る手に力を込めてきた。
負けじとおれを陥落させるツモリらしい。
「…ん」
思わず声が漏れた。やっぱ、感じる。それなりにツボ判ってるのは、やっぱ同じ男だからかね。
だけど、器用な料理人の指テクに敵うと思うなよ。
ぜってー先にイカせちゃる。

何だかムキにそんな事考えてしまうあたり、自分でもガキだなあなんて思うけど。
弱気な自分も、ムキになってリードしたがる自分も、甘える自分も。
全部恋心故なんだから、許してほしいね。

荒い息を吐き出す唇に、再びぴったりと唇を重ね、その吐息を感じながら両手でゾロを愛撫し続ける。
「………あ、ァ…っ!」
「……は……ッ……」
堪えきれない小さな喘ぎを唇に感じた瞬間、掌に熱い液体が吐き出された。
イク瞬間に、震える手にキュッと強めに握られたおれも、ほとんど同時に絶頂に達していたけど。
…この場合、勝負は引き分けかな?

 

 

「…サンジ」
「ん?」
『仲直り』も終わり、甘い余韻に浸りつつ、濡れた服を着替えていると。
既に服を身に付け、寝る準備万端というか、既に半分睡魔に襲われているような ゾロが、眠そうな声をかけてきた。
「おいおい、寝るなら部屋に戻れよ」
そう声を掛けると、相当眠いのか、素直に頷いて立ちあがった。
「殴って悪かったな」
扉を閉める直前、ぼそりと伝えられた台詞。えっと思い、返事を返す間もなく、ばたん!と若干乱暴に扉が閉まり、照れてでもいるのか、早足で遠ざかる足音が響く。

……………ああもう。
かわいいったらないね。

思わず頬が緩む。

 



今晩は、人生で一番幸せな夢が見れそうだ。

 



個人的に、「可愛い」って表現はサンジの方に
使いたいのですが。可愛い攻大好きですv
サンジ一人称だから書けなかったけど、ゾロの方も
サンジの事かわいいって思ってそーです。


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