「な……!」
サンジのものを揉み込むように掌を蠢かす。衣服越しでも判る程に硬くなっていたそこは、手の中でびくりと反応を返した。
「何すんだ、おい…っ!?」
サンジが慌ててこちらの手を払い除けようとするが、あまり力が入っていないせいで効力が然程無い。
「てめ、何考えて……」
本気で抵抗され、罵倒の言葉を浴びせられるのをどこかで恐れていた。だから、性急に行動してしまう。
サンジが未だ混乱しているうちに。
「あ……!」
ズボンの前をくつろげ、忍び込ませた手で直接握りこんだそれは、先程触れた彼の手よりもずっと熱を帯びていて。
思わずといったように上がったサンジの声は、戸惑いの中にも確かに快楽を滲ませていて。
─────どうしようもなく煽られた。

「っ、ぁ……やめろ、ゾロ…!」

上下に扱くと、サンジの声が震え、制止を促す。


これだけだから。
これ以上、手に入れようなんて考えてないから。
その身体も心も全部なんて、無理なのは知っている。
だから。
だから勘弁してくれ、…などと自分勝手な事を。


「ぅあ…ッ」
自分の中の葛藤や後悔も、サンジの制止の言葉も無視し、手の中のものを刺激し続ける。
やがて、小さく叫んだサンジの身体が強張り、僅かに痙攣するように震えた。
同時に手に放たれた熱く滑る液体は、指に絡みつき、手の甲へと流れていく。

「…は、………」

暫くは二人とも無言のままだった。
サンジの荒い息づかいと漣の音だけが甲板に響いている。

「何の…つもりだよ、てめェ…」
沈黙を破ったのは、手を離すと同時にくず折れるように座り込んだサンジの方だった。
「別に…辛そうだったから、自分ですんのも大変じゃねェかって思っただけだ」
酷い言い訳だ。
けれど、お前に触れたかったからなんて言えるわけがないから、これでいい。
そうは思うものの、憤っているだろうサンジの顔は見れなくて、俯いたまま言い放つ。
自分に向けられているだろう嫌悪の表情は、さすがに直に見たら堪えるだろうから。

「クソ……何で、てめぇは……!」
そう悔しげに呻いたサンジの声が、耳に届く。


───やはり駄目か。
強引に組み敷いたりはしなかったが、この行為もサンジのプライドを傷つけるには充分だっただろう。
もう仲間として、今まで通りに接するのは無理かもしれない。こんな蹂躙をされたサンジの方も、激情を抑えきれなくなりつつある自分の方も。
どうせ拒まれるなら、言ってしまおうか。いっそ。

どうしようもなく好きなのだと。


「サンジ。おれは……」
俯いた顔を上げ、視線をサンジへと戻した瞬間。

「……!?」

サンジの顔がやたら近くに───、なんてもんじゃない。
この距離は、いつだったかの王様ゲームでの、あの時と同じだ。
つまり唇がくっついている状態で。
「……な…」
今度は驚愕するのは自分の方だった。


キスされているのだ、と脳が認識するまでに時間がかかった。


驚きのあまり、思考も身体も硬直する。
さっきの、自分に触れられたサンジもこんな感覚だったのだろうか。

「ん…ん、っ!?」
閉じていた唇を舌でこじ開けられ、内部まで侵食される。
絡め取られる舌の熱さに眩暈がした。
「クソ、…いつもなら耐えられるのに……」
こんな酒のせいで、と吐息交じりに呟くサンジの言葉は、ほんの僅かに離されたお互いの唇の間から零れて、息が肌を擽る。
その吐息の感触に、ぞくりと背筋が戦慄いてしまうのはもうどうしようもない。
一体何が起こったのか。
目を白黒させているおれに、悲痛さを滲ませたようなサンジのきつい視線が向けられていた。
「いい加減にしろよ…、普段なら何とか押さえ込めたのに…お前、自分が煽ってる自覚ねェだろ」
こんな時にあんな風に煽られて、抑えられるか、───と。
その言葉と同時に、甲板へと押し倒された。

「サン…!?」

背中を強く打ち、痛みを感じるが、正直それどころじゃない。
「あんなゲームで簡単にキスしてきたり、さっきだって、あんな事………おまえ、自分が何してんのか判ってんのか? 判ってないから出来るんだろうけどな…ッ」
再び噛み付くように接吻けられる。
「っう…ん、ん」
何度も、離しては重ねて、深く絡めて。
そうして塞がれる度に、こっちの息も上がってくる。
「後悔したって遅い、てめェが悪いんだからな……。…もう、嫌われようと知ったことか…」
責めるような台詞だが、どこか泣きそうな、震える声音。
唇を離し、おれの肩口に顔を埋めたサンジの表情は判らない。どうしたらいいかも判らない。
その時。


「好きだった、ずっと」


耳に届いたサンジの言葉に、身体が震えた。

「……嘘だろ?」
「嘘じゃない」
言うつもりなんてなかったのに、と。
そう呟くサンジの手が性急に蠢き出す。
シャツを捲り上げられ、直接肌に触れられても、それでもその言葉を信じられなかった。
「だってテメェ、そんな素振り一度も……ゲームでのキスだってあんなに嫌がってたじゃねェか…っ」
「そんなの当たり前だろ、気づかれたら終わりだってずっと思っていたんだから…!」
ばれたらおしまいだ、と。お前に嫌われるのが怖くて、と。
そう耳元で、悲痛さを滲ませた声音で囁かれる事に耐え切れなくなり、サンジの顔を無理矢理自分の方へと向けさせた。
組み敷かれた状態のまま見上げ、視線を絡ませる。
媚薬の効果がまだ切れないのか、興奮を滲ませ僅かに潤んだ目に見詰められ、背筋が震えた。

視線だけで煽られる。
───お前だって気づいていないだろう。自覚ないだろう。
その目線でどれだけこっちが追い詰められているか。

「…同じだったのかよ、お前も……」
つい笑ってしまう。サンジの方は、意味が判らないとばかりに首を傾げているが。
「何…だよ」
問う言葉には答えず、その首に腕を回し引き寄せ、耳元に唇を寄せた。

「…いいぜサンジ、好きにしろよ。お前がしたいように」
「っ……!?」

まさか組み敷かれる側になるとは、正直想像の範囲外ではあったが。
この相手が手に入るなら、そんな立場もどうでもいいとすら思う。
何故、と戸惑うように問いかけてきた男に、ずっと押し殺しそうとしても出来ずに、胸のうちに燻り続けていた想いを、漸く口にした。




おれもずっと好きだった、と。



コメディというには微妙な…
でもシリアスじゃないんでコメディ系に分類。
続きはもう暫くお待ちくださいー。

無料配布本ではここまででした。
正直、「えっこれ逆じゃね?」と思い
SZ的な濡れ場を足そうと思ってます…
個人的にはリバ好きですが。



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