「……ッ………」



声は必死で堪えているものの、口を押さえる手の甲の隙間から、跳ねる吐息が零れ落ちる。
気温も高く空調も無い部屋は、湿った熱さを孕んでいて、絡む身体を汗ばませる。
立てた膝の裏から、腿に向かって汗が流れ落ちる感触。普段は不快としか感じないであろうそれすら、妖しく神経を刺激する、制御の効かない身体を、ゾロは苦々しく感じていた。
救いがあるとすれば、自分の両腿の間に居座っている人間の身体も、同じく熱を持ち湿っていて、自分一人が昂ぶっているのではないのが判るという事か。
普段は体温の低い、サンジの身体も。

「声、我慢すんの大変じゃね?」
「……う……っせ…」

それでも揶揄うように耳元で囁く声が、腹立だしい。
まともな声で返答出来ない自分も腹立だしいというか、情けないのだが、こればっかりは仕方無いだろうと諦める。
せめて、変な声だけは出さないように、歯を噛み締めるのだけれど。

「………ぁ……!」

既に衣服は矧がれ、肌を晒している。先程からずっと緩く下肢を弄られ、熱を孕み硬くなったソコは、湿った音を立て初めていた。
そこを強く握り込まれて、思わず喘ぎが上がる。
「知ってる人間がいるわけじゃなし。聞かせてやれば?」
悪戯っぽく囁くサンジの声は、楽しそうなことこの上無い。
アホ、と罵ってやりたいが、今声を出したら完全に上擦る。
制御しようと試みれば試みるほど、苦しさが増す。こんなんなら、サンジの思惑通りに、防音設備のあるラブホテルでも何でも、入った方がマシだったかもしれないなどと今更思う。
「ふ…………」
濡れた先端を割るようにしながら芯を愛撫していた指が、奥へと探るように忍び込む。
広げられ、内部に侵入する、感触。
「……ぎ…」
「『ぎゃー』はやめてくれよなー;」
思わず前回そうされた時と同様な、色気もへったくれも無い悲鳴を上げかけた口を、今度はサンジの人差し指が押さえる。
そのまま、唇を割り、口腔を侵す細い指。
もう片方の手は、下肢から体内を。
自分でも、自分の中をそんな風に触れた事なんか無いというのに。
自分以上に、この指はこの身体を知っているのかもしれない。
そんな思考が少し頭を過ぎって、それを悔しいと感じる。
「…ゾロ?」
口を好き放題に侵す指に、舌を絡め、舐め上げる。軽く歯を当てながら、奥に吸い込むように吸い上げると、びっくりしたようにサンジが名を呼んできた。
ささやかな逆襲。自分ばかりが翻弄されているのも悔しいから。
「上、等」
だけど、にっこりというかむしろニヤリと唇の端を上げたサンジに、取るべき行動を間違えたかもしれないなんて、目にした瞬間に後悔していたゾロだった。




「ふざけんなー!!!」
なるべく押さえた声で上がる、抗議の声。ゾロのそれは、笑顔のサンジに軽く受け止められてしまった。
「えーでも。おれはいいけどさー、お前……」
ゾロに向かい差し出す、白い指に持つそれは、その指よりも更に白く光るチューブ。
「痔になっちゃうぜー?」
にこやかにそんな事を言い出す顔を、本気で殴ってやろうかとゾロは拳を振り上げたが、その手を軽く押さえられて。
「ちゃんとしないと痛いのは、てめーだって判ってるだろ? 無駄な怪我する必要はねェと思うけど」
それとも、おれに慣らしてほしいわけ? なんて、面白そうに囁くサンジの頭は、今は自分より低い位置にある。自分を見上げる青い瞳は、悪戯っ子のような輝きを含んでいて。
今は、寝転がって上半身を枕にもたせかけたサンジの上に、跨るような体勢を取らされ
ていた。
自分に向かってサンジが差し出しているチューブ。それは、ゾロには見覚えのある物だった。
前に寝た時に、使用された潤滑剤。
サンジがにこにこと「これ使って、自分で慣らしてみな」なんて言い出して、最初何言われてるかサッパリ判らなかったが。
何をどーしろと細かく指示されて、青くなった。
もういっそ、自分が上位なこの体勢に任せて、押さえつけて抱く側に回ってやろうかとすら思うが。
「………ッあ…、っ!」
追い詰められているのは、確実に自分の身体の方で。下からサンジが手を伸ばし、その指先で皮膚を辿られるだけで、身体が震え小さく声が上がってしまう始末だ。


こんな風になってしまうのも、多分相手がコイツだからなんだろう、と思う。
他の人間に対して、ここまで自分を制御出来なかった事なんて無い。


「ほら…」
手をとられて、指に押し出される、透明なジェル状の潤滑材。
(ちくしょ……)
これで、自分で準備しろという。跳ねつけても柔らかく触れてきて、焦らすような感覚を残し。弱い箇所を探る指に陥落させられそうになる。
だけど、完全に言いなりになるのも、腹が立つ。

「………………」

無言のゾロが動いた瞬間、
「え!?…あ」
次の瞬間、サンジの口から慌てたような小さな声が零れた。
ローションに塗れたゾロの手が、そのままサンジの既に昂ぶっていた中心へと延びてきたのだ。
「ちょ……」
握り込み、人工的な粘液を塗りつけるように扱く掌に、サンジが反応する。
「準備つーんなら…こっちもだろ?」
要は、摩擦を減らせばいいワケだなんて、真面目な顔してサンジのモノに潤滑材を塗りたくるゾロに、最初は驚いたものの。
「…く…はは」
思わず上擦る吐息を漏らしながらも、サンジは声を上げて笑ってしまった。
「お前、やっぱイイなー」
プライドも高く、反抗的で。媚びる事も無く。
そんな所がまた、滅茶苦茶にしたくなる一因だなんて、目の前の男は気付いてもいないに違いない。
「で、ソッチの準備して、自分で挿れてくれんの…?」
挑発的に言葉を紡ぐサンジに
「挿れさせてクダサイってお願い出来たらな」
これまた挑発的な言葉が、不機嫌そうな声で返ってくる。
(おもしれー!! やっぱコイツ最高!!)
頭の中でそんな事を叫びながら、笑いを含んだ声で「お願い」してみる。
「挿れさせて。オネガイシマスv」
その言葉に、ゾロが腰を浮かせた。サンジの自身を握り込みながら、先端に秘部をあてがい、侵入させようと試みるが。
「…………ッ」
うまく身体が開かないらしく、きつく眉が寄せられた。
そうなるだろうなーと見越していたサンジは、しばらく自分の上で悪戦苦闘しているゾロの姿を楽しげに見詰めていたが。

「ほら、一端腰浮かせろよ」

上半身を起こし、ゾロの腰へと手を回して身体を支えてやる。
思うように受け入れる事が出来ず、どうにも身動きが取れなくなっていたゾロの背に手を回してやると、強張っていた身体から力を抜いて、汗ばんだ身体を預けてきた。
「無理に入れると、さっきも言ったけど痔になるぜー。あのな、女の子相手のと違って、後ろ使うのは大変なんだから。もっとちゃんと準備しなきゃなー」
ロクに解れてもいない筋肉をこじ開けて侵入させるのはまだ無理だろうと、サンジが耳元で囁くと、悔しそうな表情を見せる。
「そンな顔しねーの。お前、自分がまだ経験たった2度目だって事、忘れてねーか?」
女の子相手には何度ヤってたか知らねーけどさ、などと言いながら、宥めるように背を撫でた。
「……あ!!」
そのまま指を下へと滑らせ、秘孔の周りを緩く辿ると、ゾロの身体がひくんと反応した。
枕の脇に放り出していた潤滑材を、今度は自分の指に取り、そのままゾロの体内に侵入させる。
内部の神経は、ゾロ自身よりもこの指の方が熟知している。擦ると反応し、腰を揺らめかす程に快楽を与える部分も、ひくつき締めつける内壁の熱さも。
「……う……ッ…ん……」
複数の指を受け入れられるようになるまで慣らしている間も、弾む吐息を漏らす口元を、サンジの肩口に押しつけて耐えている。
嬌声は上がらない。
下肢は熱く反応し、蜜を零す程に張り詰め、探る体内は誘うように蠢いて、快楽を顕わにしているというのに。
最後の理性とばかりに、完全に堕ちようとしない。それがまた、抱いている側の人間を煽るとも知らずに。
前に抱いた時にも湧き上がった征服欲。
それをまた自覚して、サンジは少々乱暴に指を引き抜いた。
「────ッあ……っ!!」
熟れた粘膜を引き摺られる衝撃。
耐え切れず、掠れた悲鳴をとうとう上げて、ゾロの張り詰めていた中心からは、白濁が吹
き零れていた。


荒い息を吐き脱力するゾロの身体が、ゆっくりと反転させられる。
また寝台に押しつけられる形になり、背にサンジの体温で暖められた、寝具の布の感触が当たる。
「まだまだ、こっから本番だろ?」
おれまだイってねーもん、なんて囁く声。
見上げた先にある、端麗とも言える顔の艶然とした表情には、何処か無邪気さも覗く。

──────コイツには、どうやら本当に弱いらしい。

自覚した感情はもう、否定する事は出来なかった。





だるい身体を引き摺って、軽くシャワーを浴びてからベッドへ戻ってきてみれば、サンジは既に寝息を立てていた。
あれから何度突っ込まれてエライ目に合わされたかを考えると、思い切りその寝ている身体に蹴り入れて、ベッドから叩き落としてやりたい衝動に駆られたが。
「ったく……」
頭を軽く叩くに留め、隣のもう一つのベッドに潜り込む。鍛えている身体とは言え、普段使わない箇所の筋肉を使い、神経まで甚振られる行為にさすがに疲れきっていた。
このまますぐに眠りに落ちそうだ、と目を閉じた時に。
「………ん?」
もぞもぞと何かが、布団の中に入り込んでくる気配。
「サンジ!!」
布団を捲れば案の定。金髪が自分の胸のあたりにごそごそと擦り寄っている。
「叩くなよなー。起きちまったよ」
「また寝ればいいだろーが!」
「寝るよー。ココで」
「寝るな!!」
「どっちだよ」
「あっち行けよ!」
「あっち、シーツべとべとだし……」
「今まで寝てたろーが!!!」
ぽんぽんと掛け合いがまた始まる。
恋心を覚えようが、身体を繋ごうが、根本はきっと何も変わらない。甘い雰囲気なんて、この相手とは一生無縁だろうと思う。
だけど。

寄り添う温もりは、どんなに否定したくとも心地よく、今後自分の対応が甘くなるだろう事を自覚して、ゾロは盛大に溜息をついた。



そしてやっぱり、今回もへばりつくサンジを引き離す事は出来なかったのであった。



ええと。完全両思いハッピーエンド編とでもいいますか;
前回の馬鹿話をもらってくださったAr.NORIKOさんのHPの
掲示板で、続編の事とかちょっと話題を出して頂き、
嬉しさの余り、調子に乗って書いてしまいまし太。
いやホント調子乗りすぎだろう自分…;


ゾロの火遊び(?)に気づいてないサンジとも思えないんで
三度目があるとしたら、お仕置き編かもですねい…。


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