気を失うかのように寝込んだチビゾロを、とりあえず男部屋のソファに寝かせて。
昼メシの用意をしつつも頭は上の空。

おとーさんおかーさんクソジジイ、ごめんなさい。
人として失格です俺……

…上の空でも、きちーんと料理は出来あがる。さすが俺。プロだ。
「サンジ君、お昼できた? ルフィがお腹すいたってうるさいの」
と、入ってくるナミさん。後ろからは「めしー!!」と、我らがキャプテンの絶叫が聞こえてくる。確かにうるさい。
「ゾロは?」
「……寝てます」
「あそ。ちっちゃくても寝ぼすけなのね、やっぱり」
…まさか俺が原因とは言えない。
「ゾロ、元に戻りますかねー?」
やはり気になってたので聞いてみる。
「わかんない。色々調べたけど、精神が子供に戻るならともかく、体まで子供になるなんて例なかったもの。魔法でも使ったとしか思えないわ」
「戻らないと、困ります…よ、ね?」
「当たり前よー」
この人数の少ない海賊船の中で、戦闘力として重要な位置にいるんだから、と、彼女は言う。
何だかんだ言って、そこには信頼が有る事を、改めて思う。
「それにっゾロにはお金貸してるのよ!! まさか記憶もない子供に、返せなんて言えないじゃない!! もー、ほんと困るわ」
……そんなせちがらいナミさんも素敵だv



ランチタイムも片付けも終わり、まだ寝ているゾロの様子を見に行く。
穏やかなその寝顔に安心しつつ、また改めて罪悪感が募る。

「やっぱ、俺の願い事のせーなのかなー……」

掛けた毛布からはみ出ている腕を取る。
細くて、頼りなくて、自分の持つ記憶の中のゾロとのギャップに、悲しいような不安な気持ちになる。

どれだけの鍛錬や苦労を重ねて、あの19歳のゾロへと育ったんだろう、なんて考える。

このまま戻らないなら、俺が守ってあげたいと思う。
そばにいて、ずっと育ててあげたいなんて思うけれど。

それで、果たして、俺が知っていた、あのゾロへと育つことが出来るのか。

もしかして俺の願いは、ゾロからあまりにも多くのものを奪ったんじゃないか、と今更ながらに気づいた。
人生のうちの何年間…。
俺達の知る、「ロロノア・ゾロ」の人格を、その強さを、形成したであろう期間。
小さなゾロは、あまりに可愛くて素直で、はっきり言って俺は浮かれていたけれど。
俺、もしかして取り返しの付かないこと、したんじゃないか?(いや勿論抱いたのもなんだけど;)

「……ンジ…?」
は、と気づくと、ゾロがこっちを見ていた。寝ぼけてるのか、あまり焦点が合ってない。
「わり、起こしたか?」
「ん……」
「何か食うか? それとももう少し寝とくか?」
尋ねたら、目を閉じた。寝る方を選んだらしい。
「さっきはごめんな」
「……………」
早速寝に入ったのか、返事はない。
「でも嬉しかった。お前が俺の事、好きって言ってくれたし」
「……………」
「ずっと不安だったから」
「……………」
「……ごめんな」
「………………」
いろいろな、沢山の意味を込めて、その言葉を口にする。

やっぱり、返事はなかった。



その夜。
夕食の時も、ゾロは起きてこなくて、その小さな身体にかけた負担を気にしつつ、見張り台に俺はいた。
既に時間は深夜。今夜も、空には雲ひとつ無く、星空が綺麗に広がっている。
でも、今日は流れ星は見えない。
「願い事、あるのになー…」
空に向かってため息をつく。
「ゾロが戻りますように、って」
前の願いは、俺の我侭。でもそれは叶った。
好きだって言ってくれた。その言葉で、掴んだ掌で、俺を求めてくれた。
だから今度は、俺が素直にならなくちゃと思う。

ゾロが、元に戻ったら。喧嘩の原因を謝って、酷い事したのも謝ろう。
素直に思いを、俺は言ってたつもりだけど、多分あいつは信用してなかった。だから今度は、あのニブチンゾロにも伝わるよう、ちゃんと言葉を選んで伝えよう。

今度は俺が素直になるから。
だからお願いします。そのチャンスを俺にください。

祈るような思いで(つーかマジ祈ってた)空に流れ星を捜し続けたけれど、とうとうその晩は、見つけることはできなかった。





さて、今日も料理人の朝は早い……じゃなくて結局徹夜だ…。眠いし頭痛いしでちょっと泣きたい。
結局あれから流れ星を捜し続けて、眠れなくて。でも駄目だった。見つからなかった。
欠伸を噛み殺しながら、裏ごししたポタージュの鍋を火にかける。

さてそろそろか、と思うと、まさにジャストなタイミング(長嶋風)で、ばたばた足音が聞こえてくる。今日もあの船長君は元気だねえ。
「サンジー!!」
「おう。メシはもう少し待て」
「お、肉あるか?…じゃなくて、ゾロが!!」
「な、何だよ?」
ゾロの名前が出ただけでドキっと心臓が跳ねる。
昨日、無茶させたせいか、結局あれから寝つづけて、起きてこなかった。
無茶した張本人の俺は、罪悪感でいっぱいで、はっきり言って滅茶苦茶心配だった。

「ゾロが、いつものゾロだ!!」
「は?」
「おっきいゾロになってた!!!」

……はい?

「元の、19の、ゾロ、だった、ってこと、か?」
頭がうまく言葉を紡ぎ出せないみたいで、妙な所に句読点を交えつつ聞く。
「うん。いつものゾロがソファで寝てる……って、おいサンジ!?」
考えるより先に、身体がキッチンを飛び出していた。
ああ、ポタージュ鍋にかけたままだったと、一瞬頭をよぎる料理人としての判断。だがしかし、足は止まらなかった。…よく煮込んだポタージュもうまいだろう、うん。

でも何で。元に戻った?
ふと、誰かが言ってた言葉を思い出した。
肉眼には見えなくても、本当は幾つも空に流れ星はあるって。
その中のひとつが願いを聞いてくれたとか。うーんファンタジー…ちっと呆れるご都合主義な考えだがな。



男部屋へ向かいながら考える。

謝る言葉。
改めて告白。
大切に思っていること。
どんなに好きなのか。

全部全部伝えられるよう。

畜生、嫌がっても渾身の力で抱き締めてやるからな。逃げられるもんなら逃げてみろ。
お前の気持ちはもう俺は判ってるンだから。

とりあえず、夢の中の住人な恋人は、やはりキスで起こす事にしよう。




オチがショボいい。いっそ夢オチにした方が良かったか;
子供ゾロは、本当に11?もっと下っぽく書いてしまったよーな。
サンジの言葉遣い、さり気に何か違うし。うーん。



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