「しかしすっげーなー、反対方向にあんなに堂々と歩いて迷う奴なんて、初めて見た!」 「うるせェ!!」 駅へ向かう途中にある飲食店。 地下に存在するそこの落ち着いた内装と、和食を中心とした料理の味の良さを、密かにサンジは気に入ってて、よく寄っている。 駅への道を訪ねられ、そこから会話を繋ぐ事に成功したサンジは、例のマリモ頭がちらっと「夕方になっちまったし、メシどっかで食うかな」と漏らした言葉に食いついて、「うまい店知ってる」やら何やら、言葉巧みに誘ったのだ。 手法としては、完璧に女の子に対するナンパと同じだなーなんて思うと、「男相手に何やってんだ自分…」と少々気落ちしてしまうが。 だけど、現在テーブルの向かいに座っている相手が、何故か気になって仕方が無い。 先ほど、同性相手の痴話喧嘩(?)を繰り広げていたその相手は、それでもサンジには危機感を抱かなかったのか、「うまい料理」と「うまい酒」と聞いただけで、ほいほいとついて来た。 会話するうちに、簡単な自己紹介らしき言葉を交わして、マリモ頭の名前は「ロロノア・ゾロ」というのだという事を知った。 サンジも自分の名前を正直に伝えたが、ゾロは知らないようで、「そうか」と無反応だった。 無言で、だが満足気に酒を進める様を、サングラス越しに眺めやる。 年齢は恐らく、16,7くらいか。その割に慣れた飲みっぷりだなーなんてぼんやり考えて、ふとずっと見つめている自分に気づき、我に返って慌てる。 「何してんだよ」 わたわたと暴れているサンジに、そんな怪訝な声がかけられ、益々あわあわしてしまう。 「そ、そーいやお前、あのホテルの前のアレ凄かったな…!」 思わず口をついて出た言葉、言った後に「やば」と思ったものの。 「あー? あれ見てたんかよお前……」 ちょっと眉を顰めたものの、別に気にした風もなく答えたゾロに、やはり気になっていたサンジは「あれ一体何だったん?」と聞いてしまう。 「ちっとな、金が入用だったんだけどな。イイ仕事紹介するっつわれたからついてったら、連れ込まれそうになった」 踏み込んではまずいかと思いつつ、詳しく問うと、別にゾロにとっては隠すような事でもなかったらしく、淡々と話し出した。 それによると、ゾロにとって育ててくれた恩人が、すぐに金を出さなくちゃいけないという窮地に追い込まれ、手助けしたく思ったゾロは、代々伝わって来た刀を質に入れたらしい。 「まあ、そうすぐに売れる程安い物じゃないし、出来たら金集めてまた買い戻したいと思ってさ。高校は辞めるなって言われてたから、空いた時間に出来る割のいいバイト探してたんだけどよ」 あの親父、金になる仕事あるからって言うからついて行ったのに、いきなり変な所に連れ込もうとしやがって……と、酒の徳利を片手に苦々しく呟く。 「あーゆーのが変態ってやつか」 危機感もあまり感じない様子で、のほほんと言うゾロに、サンジの方が危機感を感じてしまうくらいだ。 「おれも思わず頭に血上って、殴り倒しちまったが……」 「殴り倒して当然だよそれ;」 呆れたように返すサンジはふと、ある事を思いついた。 ────目の前の可愛い女の子ではない。 それは百も承知だが。 だがしかし、かなりいい線だと思う、し。 何より、今後これきり会えないのかと思うと。そんな事を感じた瞬間。 「イイ仕事、おれが紹介してやるよ!」 思わず口から飛び出していたのは、こんな台詞だった。 「…私、女の子を捜してきてって言わなかったっけ?」 扉を開けたサンジが連れてきた人間を見た瞬間に、ナミはそう呟いていた。 サンジの連れてきた人間は、どっからどう見ても「男」だったわけで、その上どーやら何が何だか判っていない。 キョロキョロ事務所を見回しながら、「事務職は苦手なんだがな…」などと、よく判らない事を呟いている。 「あの、そーなんだけど……そこそこイイと思いません??;」 「………………」 じとっと呆れたような視線を寄越すナミに、慌てて言い訳しつつ推薦する。 「こーいうクールなカンジって、意外と受けるし……顔もオレ程じゃないけど、そこそこイイし……」 サンジの台詞には答えず、それでもナミの大きな瞳が、遠慮無くゾロの顔中心に全身を眺めやる。 「……ま、いいわ。確かに可能性はありそうだもんね。それに女の子に関しては、私がこないだ、すっごい可愛い子見つけたし」 ナミはナミで、ビビというかなりの美少女を発掘していたのだが、それはまた別のお話という事で。 「そうだ! どっかで見た事あると思ったら、お前、アイツだ!」 二人の会話を、頭の周りにハテナマークを飛ばしたまま聞いていたゾロが、何事かを思い出したように、ポンと手を打ちながら言葉を発した。 「コンドームの奴!!」 ゾロに指差され、そうきっぱり言われたサンジは、その場にがっくりと脱力したという。 一寸先は闇、とでも言っただろーかこういうの。 本当、人生何が起こるか判らない。 ゾロはつくづくそう思っていた。自分がブラウン管の向こう側の住人になるなんて、想像もしなかったのに。 半年前、あの男に出会ってから、運命の軌道がかなりズレた気がしてしょうがない。 「CM決まったんだってなーゾロ! 頑張れよー」 ベッドで煙草を吸いながら、楽しそうにかけられる声。 その横に、濡れた髪を拭きながら潜り込んだ。 「あ、髪乾かしてから来いって言っただろ? 枕濡れるだろーが」 「うるせェ。眠ィんだよ。ただでさえ疲れてんのに、誰かが変なコト仕掛けてきたせいで…」 こんな風に、他人の部屋で過ごす事も、他人のベッドで眠る事も。 半年前には、考えもしなかったのに。 コンドームのCMの男。 こいつに連れて来られ、いまいち状況が把握できてないままに、にこやかな笑顔で書類を出してきた女──ナミに、署名させられ拇印取られ。 後で喚いても遅かった。 何より、今や出演しているCM二桁、ドラマでも主役が決定したコンドーム男ことサンジは、豊かになった財力で、ゾロの刀を質屋から買い取ったという事実があったりして。 「誰かに売れて行方がわからなくなるより、恋人のおれが持ってた方が安心だろ?」 なんて言われて、それは親切ではあるかもしれないが、ゾロにとってはある意味、人質を取られたも同然だ。 確かに、いまや恋人といえる関係ではあるのだが。 背中に感じる体温は、決して不快なものではなく、その事が逆に溜息をつきたくなる原因でもある。 ────何で、こんな事になっちまったのか。 「何溜息なんかついてんの、ゾロ」 「うわッ!」 耳元で、息を吹き込まれながら囁かれて、反射的に体が跳ねる。 わたわたと振り向き、起き上がろうとした行動を待っていたかのように、上から唇を重ねられた。 「んぐ! てめ…」 驚きのあまり、色気も全く無い声が唇の隙間から零れ、もごもごとしながらも罵声を紡いでくる。 唇の隙間から「離せ」だの「馬鹿野郎」だの「万年発情期」だの、言いたい放題しているが、本気で振り払われていないのは、上から組み敷いているサンジが一番判っていた。 「………ッ」 頬に置いていた手を、いきなり胸の突起に落とし、指で軽く捻るようにしただけで、ゾロの罵声は途切れた。 過敏な身体に小さく笑みを零し、おとなしくなった舌を絡め取り、音を立てながら吸う。 「もーいい加減にしろ……明日学校あんだよ…」 口腔を散々貪り離した後、濡れた唇と弾む吐息で抗議される。 少し前まで、このベッドの上で、堪能した筈の熱。それでも。 「あとちょっとだけ……」 年下の相手に甘えている自分が少し情けないけど、離したくないと思ってしまうのだから。 ここまでの関係になるのに、自分がどれだけ努力したのか。元々恋愛にあまり興味無いらしいゾロには、絶対一生わかってもらえなさそーだけど。 「お前さー…」 「……あ?」 「これから多分人気出ると思うし。かわいーアイドルや女優とか、いろんな人間と会うようになるだろうけどさ」 おれ以外に傾いたら許さねーからな、なんて。 埋めた首筋を唇で軽く愛撫し、囁く睦言というより脅迫。 「……ばーか」 呆れたように返ってくる雑言のあと、小さく「そらお前の方だろ」と呟く声がした。 「ちょっと待て!!」 さあいざ行かんクライマックスへ、という、己の熱で相手の身体を貫く直前。 かけられたストップに、サンジは思わずぴたりと動作を止めてしまった。 「………ゾロ?」 「そのまま挿れんな! ゴムつけろコンドーム男!!」 直前まで快楽に意識を漂わせていた腕の中の相手が、めさめさ現実的にきっぱりと言ってくる。 「明日学校だって言ったろーが」 後始末もめんどいし、負担もあるしと、そういう事を言いたいらしい。 「あと流れてくる感触…あれすげー苦手なんだよな。テメェもあのCMやってんだから、率先してちゃんとつけとけっての」 「…………………」 言いたい事は勿論わかる。 判るが、だがしかし。 しばし考えるような素振りを見せたサンジは、次の瞬間にっこりと笑顔でのたまった。 「後でおれが風呂で後始末してやるからv」 直後、薄暗い部屋にはゾロの、悲痛ながら何処か甘さを含む悲鳴が響き渡ったという(合掌)。 CMのイメージも何のその。 自分を出世街道に乗せてくれた、ゴムのソレには感謝しているが。そして、スポンサーの製作会社から、これでもかという程何ダースもいただいてはいるのだが。 「やっぱり生が好き」 などと言ってのけた相手に、ゾロの拳が飛んだとか飛ばないとか。 |
これ書いた頃はコンドムCMって
見た事なかったんですが、最近は
あるのかな? EDはよく見ますが。
てゆかほんとに馬鹿ですみません…
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