断末魔の叫びを放ち、消滅するかと思われた妖魔は、そのまま床へぐったりと倒れ伏せていた。



「…あれ?」

醜く歪んでいた妖魔の形相が、どんどん穏やかなものになってゆく事に気付き、おれは驚いた。
恐ろしげな形相は消え、穏やかな表情になっていったその姿は、どこにでもいる中肉中背の平凡な男だった。年は20代半ばくらいか。
疑問符を飛ばすおれに、刀を鞘にしまいながらゾロが言う。
「こいつら、元々は普通の人間なんだよ。魔力みたいなので化け物に変えられてたみてーだけどな」
その刀は、妖しげにすら見える反射光を放ちながら、小さな音をたてて剣士の腰の鞘に収まった。
「この刀…鬼徹で斬ると、何でか知らねーが、元の人間に戻す事が出来るんだよな」
おれの視線に気付いたのか、うちに代々伝わる妖刀なのだと、そう教えてくれる。
この倒れてる人間も、じきに目を覚ますだろうと。
「何、てめー妖怪退治のプロか何か?」
思わずそう尋ねると、剣士の方も尋ね返してきた。
「そんなんじゃねェよ。うざったいから何とかしてるだけだ。テメェこそ何者だ? コック姿で、ンな物振り回すわ、とんでもねー台詞吐いてるわ」
「あ、あれは呪文なんだよ! 言いたくて言ってんじゃねー!! これだって別に…」
赤面する思いで、慌ててホーリースティックを背中に隠すが。
「まあ別に、お前が変態だろーと構わねぇが。そんな事より、お前………」
「な、何だよ」
「いや…どこかで会った事あったか…?」
バンダナの下から視線が覗き、じっと目を見られる。
その視線に、やはり懐かしい愛しさが込み上げてしまう。
狂おしい程に、どうしようもなく。
目の前の剣士も、おれと同じような感覚に捕らわれているのだろうか。
剣士と、しばらく無言のまま見詰め合っていた、その時。



ごーーーーん!!!!



校舎に、鈍く篭もる音が鳴り響いた。
「………え?」
目前の剣士が、ゆっくりと崩れ落ちて行き、おれは一瞬何が起こったか判らず、その様子を呆然と眺めていた。
ばたりとその場に崩折れた剣士のむこうに、どこから持ってきたのやら、大きな花瓶を持っている白鳥が立っているのに気付いて。
「な、何してんだよテメェ!!」
白鳥が、剣士の後頭部を花瓶で殴りつけたらしい。気を失った剣士に駆け寄り、思わず怒鳴る。
「あちしだって、わーるいとは思ったわよーう。スワンスワン。でも、ちょーっと確かめたい事があるのよねい……」
そう言いながらちょこちょこと寄ってきて、剣士の顔を隠すバンダナを取り去り。

「………やっぱり…! この男、ロロノア・ゾロだったのねい…!!」

ハッとしたようにそう呟く。
「え、誰?」
「サンジちゃんは覚えてないだろうけど。遥か昔、地球に栄えていた王国の、世継ぎの王子様よう。シルバーミレニアムとも友好関係を結んでいた、お友達国さんの。そして、あなたの恋人だった男…!」
「ふぇ!?」
意外な言葉に驚き、すっとんきょうな声を出してしまう。
「間違いないわ、近くで刀を見て判った。姿形も、前世とほとんど変わりないし」
ハラマキ愛用してるのもね、と。
そんな台詞を聞きながら、倒れている男をまじまじとおれは見詰めた。
覚えていない、全然。
おれより年上らしい、高校生か大学生くらいの男。
緑の短髪に、整った目鼻立ち。左耳には、3つの金のピアス。
想像した通りの精悍な顔つきだが、寝顔(気絶顔?)はどこか、あどけなさも残っている。


前世の恋人。
それで、か?
だから、あんなにも懐かしく愛しかったのか。


「………なあ白鳥」
「いい加減白鳥って呼ばないでよーう! あちしには、Mr,2・ボンクレーって立派〜な名前があるのよーう!」
「そんなんともかく。どうしよう、おれ、コイツに惚れたみたい……」
ばたばたと羽根をはためかせて文句を言う白鳥の言葉を無視し、きっぱりとそう伝える。

───前世だけでなく、現世でも。
出会った事はやはり、運命だと思う程に。
目の前の剣士こと、ロロノア・ゾロ。彼が欲しい。

「あーらまーあまーあ!! そうねい、やっぱ前世でラブラブ恋人同士ですものねーい。あなたはプリンセスで、彼はプリンス。そうねい、それは自然よーう」
「…でもさ。おれぶっちゃけると、ヤる方やりてーんだけど」
ぼそりと呟いた本音に、白鳥ことMr,2・ボンクレーは一瞬目を見開いたが。
「まあ、そーうよねーい。サンジちゃんは男として生まれ変わったんですものねい。それも自然よーう!」
うんうんと頷き。
そして、耳元で「保健室はあっちようv」と囁き、方向を示す。
「へ? 保健室?」
意味が判らず問い返すと。
「そうよう、ベッドがある保健室よーうv 目の前には無抵抗の愛するヒト、据え膳じゃないのよーうvv」
くるくる回りながらそんな事を言い出しやがった。
「な、そんなん……相手の考えも聞かず………」
「何よう、ヤる気ないのーう?」
「いやめっさ有ります!」
しまった。つい、鼻息も荒く即答してしまった。
理性ではいかんいかんと思いつつも。既に身体は、肩にゾロを抱え、保健室に向かい始めていた。
いや違う、そーじゃなくて。殴打され気絶したゾロとやらが心配だから、だ。うん。
「そう、そーれでこそシルバーミレニアムの次の王!がーんばーりなさーいよーう!」
白鳥のエールを背に、「だから違うって」と答えつつも、あわよくばという思いは、やっぱりあったりするのだが…。
「サンジちゃん、こっちの倒れてる人間はどーするのう?」
「あ?」
忘れてた。問い返してから気付く。
うーむ、女のヒトならともかく、野郎はなー……。警察や救急車をすぐに呼ぶべきなのかもしれないが。
「ほっといたら目覚めんだろ? じゃほっとけば?」
「冷たいわねい、この若さで不能になっちゃった可哀想なヒトなのにねい」
「って、そんな事わかるのか?」
「まあねい、そういう力はあるのよう、あちし。で、それが元で女の子にバカにされたり、男友達にからかわれたりしたらしいわよう。そしてとうとう、世間の普通に勃起するヒトを妬み始めて、そこにつけこまれて妖魔にされちったみたいねーい」
…………何もコメントする気にならん。
やはり、手厚く看護なんぞしないで、ほっておこうと決め、おれはゾロを背負い保健室に向かった。

肩に感じる、温もりと重さ。
…運命の恋人か。
そういうのも悪くねーな。考えた事もなかったけど。
ある意味、最高のバースディプレゼントかもな。




ちなみに、保健室のベッドに寝かせたゾロをまずキスで起こし、その後で怒涛の告白と、あの手この手の戦略駆使した事だけはご報告しておこう。
結果は秘密で。
ま、ちなみに小学生の頃から近所のお姉様方にモテまくり、13にして童貞捨ててたおれの敵ではなかったとだけ、な。さすがの剣士さまもね。
てゆーか、どーやらゾロにとってもおれはやっぱり、一目惚れの対象だったらしくて。
それも有利に働いたんだけど。


何せ前世からの「運命の相手」なんだから。





以下、白鳥ことMr,2・ボンクレーの呟き。

ええ、あちしドアの外で、こうコップくっつけて聞いてたんだけどねい、サンジちゃんてば、可愛い顔に似合わずテクニシャンてゆーかー。
最初は、おこさまなのを逆手にとって。甘えっ子でほだしちゃってねい、あんな声で「おれのこと嫌い…?」なんてゆわれたら、あちしだってドキドキしちゃうわよう!
で、流されて見事に××されちゃうんだから、王子(ゾロ)もまだまだ青いわねーい。
声はなかなか色っぽくて堪能させて頂きました、えーえ。
それにしても最近の子供ってばもーう、おませさんねーい!!

あーあ、二人でミラクルロマンスしちゃって。
こんなんじゃ、王国再建はいつの日になるやら、だわよう。



おしまい。



ごごごごごめんなさいm(__)m;

馬鹿もここまで来ると犯罪な気がしてきました;
迷い込んでしまったセラムンファンの方にも土下座m(__)m;
 いやあの、私もセラムン大好きなんです…。
亜美ちゃんとうさぎが好きで、レイ×亜美と
衛×うさこ基本で。でも衛受も好きだった(笑)

それはともかく。今回のこのネタに関しては、
提供者はななめこと鵜っちゃんです。
電話でこんな馬鹿話をえんえんとしていた…
あ、壁紙の渦眉アヒルちゃん作ってくれたのも
彼女(笑)。笑ったよ、このメール届いた時…
ありがとーなー!!



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