「プレゼント、どーしよーかな………」


ここ最近、奥さんことサンジは、とてつもなく悩んでいた。
もうすぐ、11/11。旦那さんことゾロの誕生日。
愛するダーリン(…)が生まれた大事な記念日なのだ。それも、結婚してから初めての。
なのに。
何かプレゼントを送りたいのだが、何を送るか全然考えつかない。

スーツやネクタイや鞄。…普段だって買ってる。
たばこや高級ジッポ。…ゾロは吸わない。
愛情篭もった手料理。…毎日の日課だ。
酒。…一番喜んではもらえそうだが、何だかつまんない。それにこれもいつも買ってる。
もういっその事、「プレゼントはお・れv」とでも言ってベッドへ引き摺り込もーかとも思うが、それはそれでいつもやってる事と変わらない…。
それに結局、ご馳走という名の旦那さんの身体をいただいちゃうのは、自分の方だし(ちなみに攻なのだ、奥さんは。妻なのに)。
いや、ちゃんと相手にもイイ思いはさせてるはずなんだけどね。
まあそれはともかく。

「ああもう、どーしよう……」
もう何日も悩んで、あちこちの店を巡ってるけれど、これといった品に出会えない。
「去年は指輪贈ったんだよなあ。今年も同じだとつまんねーし…」
まだ出会って間もなかったが、これはもう運命だと確信し、「結婚するならコイツだ!」と勝手に決めつけ、指輪を押しつけたのだ。
ちなみにまだその時は、サンジは自分が旦那さんになるつもりでそういう行動に出たのだが、相談とすったもんだの末に、婚姻届けの妻の欄に自分が納まって今に至る。
夜の主導権は結局未だに握って離してないけれど。

さて、そんなこんなで今日はもう11/10の午後。
旦那さんの誕生日はあと…12時間後。
「……とりあえずまたデパートでもウロウロしてくるか……」
気のきいたプレゼント捜しと、今夜はご馳走予定の夕食の材料の購入の為に、サンジは外へ出た。

 

 

「………いない」
まただ。
自分の机に設置された電話の受話器を置き、ゾロは思わず溜息をついた。

ここのところ、サンジの様子がおかしい。
妙にそわそわしてたり、ぼんやり何か考えていたり。
料理に関してはミスなどした事は無かったのに、先日などは火を止め忘れて、なべの中身を焦がしてしまっていた程、危なっかしい日が続いているのだ。
それが心配で、火の始末などをちゃんとしているか確認する為に、ここ何日かは、昼間も会社から電話しているのだが。
留守なのだ、ことごとく。
携帯電話はサンジは持っていないし。

「また電話してるのかぁ?」

背後から、この会社では後輩にあたるルフィの声がかかる。振り向くと、相変わらずスーツに麦藁帽子という変わったいでたちで、弁当を片手に立っている。
「昼休みだぞ、ゾロ。弁当食おう!」
「あ、ああ。……もう一度だけ電話かけるから、少し待っててくれ」
そう言いながら、再び受話器を上げる。
「マメだなー、何だか最近。ナミなんか、同棲した最初の内、嬉しくて昼間も何度も電話かけたら、「私別に浮気してるわけじゃなし、そんなに何を確認したいの」って怒ったぞ」

……………浮気。

その言葉が、さくっと脳に突き刺さった。
「おい、ゾロ? 受話器落ちたぞ? …どーした??」
固まってしまったゾロに、ルフィが慌てて声を掛ける。しかし石化してしまったゾロからの返事は無かった。
石化した頭に、ぐるぐると不吉な考えが巡る。

そういえばここ数日、アレが無い。
いわゆる、夜の営みという名のアレ。

最初の内は、仕事から疲れて帰ってきて、すぐに寝られる事を喜んでいたが、それが4日も5日も続くと、不審な気持ちが芽生えてくる。
今までずっと、こっちの事なんかおかまい無しな状態で、ほぼ毎日、二日と空けずシテたくせに。
なのに。
ここの所様子がおかしいのも、昼間家にいないのも。
もしや。
(浮気…?)
その2文字が頭を巡りまくる。
サンジがそんな事…と思いつつ、過去にはかなりの恋愛遍歴もあったらしい彼だ。
まさか。
まさか。
でも─────。

上の空のまま、昼を済ませ仕事をこなし、残業までほぼ無意識にやり遂げ、ゾロは重い足取りで帰路についた。

 

 

「……ただいま……」
「……おかえり……」
家に着いたのは、夜も更けて10時を過ぎていた。
どんよりと雲をしょって帰ってきたゾロを、これまたどんよりと雲をしょってサンジが出迎える。
不審げなゾロの視線を避けるように、「晩メシ出来てるから」と、台所に引っ込んでしまう。
ついこないだまでは、全開の笑顔で出迎えて、嫌だとゆーのにお帰りのキスまでかましてきたりして、酷い時なんぞ、そのまま玄関でヤられた事もあるくらいだというのに。
(まさか、ほんとに………)
浮気されてるのかもしれない。
様子がおかしすぎる。その上、台所からサンジが、
「テーブルについててくれねーか。大事な話があるから」
と、声をかけてきたのだ。真剣な声音で。
これはもしや…

(離婚話!?)

ゾロの脳裏に衝撃が走った。がーんとばかりに。
(………浮気じゃなくて、本気で誰か他に好きな奴が出来たのか……)
思った瞬間、ざあっと体温が下がった気がした。
自分でも驚く程ショックを受けている。冷静でありたいとは思うのだが、心臓が締めつけられるように痛む。文字通り、胸が痛くて苦しい。

…何で?
べたべたされるのを嫌がったり、そっけなくしたりしたからか?
でもそんなの、前からずっとじゃねーか。
こっちからべたべたすれば良かったのか?…できるわけがない。それくらい知ってるだろう。
知ってて押しかけて来たくせに、今更全部捨てるのかよ─────

思考が混乱して、今話しかけられたら何を口走るか判らない。
とりあえず無言のまま、サンジに言われた通り、居間のテーブルに向かう。
そこには、今までの結婚生活の中で、一番ではないかと思える程の豪華な料理が並んでいて。
(…最後の晩餐ってやつか…)
そう思うと、泣きたいような気分になった。
好きだと言われ、愛情を思いきり示されるのが当たり前の生活に、甘えていたかもしれない。
与えられるのが、日常の中で普通のように思ってしまっていた。
笑顔も。
言葉も。
最高級の味の料理も。
我侭で、時に鬱陶しくさえ思える程の愛情表現も。
その腕の温もりも。
いつのまにか、日常というパズルを構成するピースのひとつになっていたそれらが、今日全て壊れるのかと、ゾロは何も言えず豪華な料理をただ見詰めるしかなかった。

 

テーブルにつくと、すぐにサンジがやって来て、向かい側に座った。
僅かな沈黙の後、口を開く。
「ゾロ………ごめん」
「……謝るなよ」
「色々考えたんだけど……」
「そうか……」
「どうしてもダメだった」
「………………」
最後通告だ、と覚悟を決める。
思えば、自分からは一度も好きだとか、そういう事を言った事はなかった。
今更のようにそれを後悔する。
今、言おうか。
でもそれは、サンジを困らせるだけかもしれない。
だけど────
「サン…」
「折角のゾロの誕生日なのに! おれはあんたのおくさんとして失格だー!!」

 

「………………は?」

 

たんじょうび?
思わず間抜けな声で聞き返してしまったが。
忘れていたけど、あと2時間足らずで、11/11を迎える。そういえば自分の誕生日だ。

 

「プレゼント、いろいろ考えたんだけど、結局思いつかなかったんだ…。女の子なら、花とか洋服とか宝石が定番だけど、どれも別にお前嬉しかないだろ? ものすごく悩んで、毎日デパートとか行ったんだけどさ、結局決められなくて…」
頭を抱え、悲壮感すら漂う風情で言うサンジだが。
ゾロは混乱中で、何が何だか未だ把握できていない。
「最愛の伴侶のプレゼントすら用意できねーなんて………おれって奴はぁぁ……」
「ち、ちょっと待てサンジ」
悲劇のヒーローの如く、頭を抱えて自分の世界に入り込んでいるサンジに慌てて尋ねる。
「お前、最近ずっと何だか考え事してたのは……」
「あ? ああ、プレゼントでずっと悩んでて…」
「んで、昼間家に居なかったのは………」
「え? 何で知ってんの? まあだからさっき言ったように、毎日デパート通いしててさ…」

……………………………………………………

(浮気じゃねーじゃねェか!!!!!)
一瞬の空白からやっとこ現実に戻ってきたゾロの思考が、「誤解」の2文字で埋まる。
「ゾロ……ごめんな。何とか、ええと、明日一日考えるから…。欲しい物、あるか?」
サンジにしてみたら、何も聞かずにゾロの欲しい物を探し当て、当日いきなり手渡して、驚き喜ぶゾロの姿を見たかったのだ。捜し当てられず当人に聞くなんて情けない事はしたくなかったのに。
しょぼんと落ち込み、尋ねるサンジの姿を見ているうち、混乱から安堵へ移行した感情が、思わず溜息をつかせる。
だがサンジは、それすら誤解したようで、ますます小さくなっていた。

 

「…………サンジ」
「はい…」
「お前さあ、おれがお前に何かプレゼントするなら何が欲しい?」
「何でも!!」
突然のゾロの質問に、ほぼ反射でそう答えていた。質問の意図は判らないままに。
「いや、だって、おれ、アンタが何かくれるだけで嬉しいし。てゆかモノなんていらなくて、そう思ってくれるだけでも嬉しい…し………!」
語尾が途切れた。
テーブルの向かい側にいるサンジに、ゾロが身を乗り出して、一瞬だけ軽く唇を触れ合わせてきたせいで。
「!!!!!?」
ゾロからこういう事をするのは、滅多に無い。いや滅多どころか、アレの真っ最中の理性飛んでる時ならともかく、ヤってもいない時に自発的にしてくれたのなんて、サンジが覚えている限り一度だけだ。この一年以上のつきあいの中で。
ちなみにその一度は、自分が高熱出して倒れた時に看病してくれてる最中にゾロが初めてしてくれたもので、当時の感動ったら、今でも感触をハッキリと思い出せるほどだ。
いやそれはともかく。
とにかく、それ程ストイックでテレ屋さんvな、シャイなあんちくしょう(謎)の旦那さんなのだ。
それが。
突然の出来事に、嬉しすぎて逆に何も言えずにうろたえているサンジに、照れと拗ねが混じったような声で、ゾロが言う。
「…おれも同じだとかは考えなかったのか?」
「へ? 何が……」
「その、プレゼントとかいうヤツ」
おなじ?
何が、と再び尋ねそうになって、漸く思い至る。

何でも。
そう思ってくれるだけで嬉しい。

自分のさっきの言葉。
嬉しいのは、物じゃなくて、自分の為に何かしてくれようとする、心。
目の前で、真っ赤になって「じゃー食うぞ」と箸を取るゾロに、間のテーブルを蹴倒してでもすぐに抱きつきたい衝動に駈られた。勿論料理があるので、そんな事はしないけれど。
「ゾロ〜vvv」
「何だよ。…気持ちわりぃな」
全開の笑顔(ニヤケ顔ともいう)で、猫撫で声を出し自分を呼ぶサンジに、ゾロが紅い顔のまま
警戒しつつ返事する。
「12時になったら、誕生パーティ始めような」
「…メシなら今食ってるぞ」
「んーん、「誕生日おめでとう」って言って、ハッピーバースデー歌って、それから朝までずっとベッドの上でお祝いvv」
幸い明日は会社はお休みだし、と、サンジが見えないハートマークを多大に飛ばしまくりながら、にっこり言ってのけた。
「何なら一日中でもイイぜ♪」
「あ、アホか!! 却下だ!!! 何でそーなる!?」
思わずゾロが、そう怒鳴るが。
「せっかくの誕生日だし、プレゼント代わりに、いつもの倍以上愛情を伝えるため頑張ろーと思いまして」
答えになっていない。
だが、テーブルの下で、サンジが「えーい」などと楽しそうに足を触れさせてくるのに、ゾロの方も、つい相好が崩れてしまう。
先程まで、こんな日常を失うと思っていたのだ。
そう思っていた時の、自分でも信じられないくらいの喪失感。
もうあんな思いはしたくなかった。

 


「そーいや何だかんだ言って、ここ数日してなかったな。うん、その分も取り戻さなくちゃだしー?」
足を悪戯に絡めながら言われたセリフに、ゾロは思わず「いらん」と憮然と答えてしまう。
そう言ってから、さっきあれ程後悔して、自分からも素直になろうかと思っていた事を思い出す。
「まーたそんなかわいくない事ゆって。ほんとは淋しかったくせにv」
「ちょっとだけな」
俯き、もくもくとご馳走を口に放り込みながらサラリと言われた言葉に、へらへらと言葉を紡いでいたサンジの方が絶句した。
「ど、どーしちゃったの今日、旦那さん」
「別に………」
俯いたゾロの耳が紅い。サラリと言いつつ、心には照れや葛藤が溢れ返り、顔が上げられないらしい。
それを見て「か、かわええ!何、今日、どしたの!!」などと萌えが下半身を直撃してしまった奥さんサンジ、
(12時なんて言わず、すぐ寝室引き摺り込めば良かった……)
こちらも葛藤しつつ。

その記念日はあと一時間後まで迫っていた。

 

Happy birthday to my darling!!
 



ロロBD合わせで書いてみた馬鹿夫婦。
奥さん結構愛されてますね。てゆか愛し合いすぎですね。
続きの「記念日の夜・いつもより何だか積極的な旦那さまに
奥さまドッキドキvの暴走編(馬鹿)」の営みは、
気が向けば書くかもしれないし、書かないかもしれないし。


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