見張り台から、恒久的に輝く夜空と溶け合う黒い海を見つめる。一本の葦たる俺は、ニコチンで肺を穢して消え行く煙を吐いた。不寝の番のクルーを夜食でをねぎらう心優しいコックは、今晩自らが不寝の番だ。従って今晩俺をねぎらう人間はこの船に居ない。個人的に一番ねぎらいを期待したい人物は、寧ろコレ幸いと、昼間貪った惰眠にも拘わらず、就寝時間を律儀に遵守したことだろう。クソ忌々しい。寄せては返す波は、一体何の為に、何をエネルギーに、波の波たる動作を延々繰り返すのか。まるで俺だ。


いつもどうり賑やかな喧騒の食卓で、俺は女性陣に給仕をしながら薄情な愛しの剣士を盗み見る。たとえば俺が、コイツの為に、時間と労力を惜しまず料理を作っても、と云ってもそれはいつものことなのだが、コイツの礼儀だけ正しい食姿は平素と何ら異なる素振りを見せないだろう。なぜなら、戦闘の度に惜しまず血を流すお前のその身体に宿る心は、俺の想いに応える気が全く無い様なので。


暗闇で全てを脱ぎ捨てて繋がって愛を囁いても、お前はさもうるさげに、その口を以て俺の口を塞ぐだけ。快感の後の余韻は、親密さを増す穏やかな時間ではなく、お前にとって単なる睡眠導入の一環。なぜなら、この非生産的な行為は、俺にはお前へのいや増す渇望があるばかりで、お前の中では欲望処理で自己完結される、精神的にも非生産的な行為に終わる様なので。


結局行為に於いて何か異なる事が有るとすれば、俺の奴への想いがそこに付随するだけで、その現象に於いて何ら変わる所が無い。波が波立つのは、風と対流のせいだ。風と対流は、地球の自転と公転による太陽間距離の変化に伴う温度変化と大気循環のせいだ。波に目的や動機を考える意思が有るわけじゃない。考える所に偉大性を主張された一本の葦は、考えた結果惨めになった。


惨めに萎れた内面を抱えた俺は、外面益々仕事を張り切った。自分の悲惨な在り方を直視した結果じゃなく、単なる逃避だ。シーシュポスの神話は理性的には理解出来ても、主観的には納得出来ない。山頂まで押し上げた途端に転げ落ちる岩を、無限に押し上げ続ける英雄にはなれない。不条理を甘受し、意味を求めず、ただ義務を果たすだけの。


孤独な不幸でカタルシス気取ってた俺は、思えば最近篭りがちのキッチンの扉を開けた。近くで昼寝していたらしいゾロの刀が振動で倒れて、反動で閉まるドアに挟まりそうになる。
「あっ・・・オイ馬鹿!」
「――――――ッツ!!」
慌ててドアを掴んで、刀に傷が付くのを阻止したが、自分の爪二枚を代償にした。
「だァ――・・っ痛ぇ、刀無事か?」
既に刀はヤツの手の中にあったが。床に在るのは俺の剥がれ落ちた血塗れの爪のみ。不条理に落ちた爪のみ。
ゾロは、落ちた爪を拾って俺に渡した。いや・・・くっつくもんじゃねぇしソレ・・・。一応受け取った俺を見て、不機嫌に眉を顰めたヤツは、そのまま踵を返してどっかに消えた。
「・・・。」
礼・・・とかあってもいいんじゃねぇ?もしくは詫び、とか。


独り虚しく手当てをしながら考えた。そもそも何故アイツはあんな処に?キッチンに俺が居るのは分かってたはずだ。そういえば敵襲でないにしては、やけに行動が素早かった、気がする。つまり、起きてた?起きてたなら扉に近づく俺の気配に、ドアを開けるだろうと予測出来たはずだ。ドアが開いたらその振動で近くに立て掛けた自分の刀が倒れるかもしれないと考えないだろうか?それとも他の事を考えていた?近付きつつある気配それ自体について?俺について?


希望的観測に基づき、曖昧で都合のイイ結論に達した俺は、事態を極私に則して解釈することに決めた。事実が、不条理でも意味が無くても、そう判断したのは人間で、行為するのも人間で、判断し得るのも行為し得るのも当人が生きている限りに於いてだ。自分を取り巻く世界を構成する事実に、自分が意味を付与しないで、自分が生きていると言えるのか。否。取り敢えず俺は、どう見てもツレナイお前の態度を、頑張って好意的に解釈するから、それ自体でさえ俺の目的や動機になるから、たまにはお前が俺に意味を、与えてくれればと願うんだよ。


「棄景」のレンさまの書かれた小説ですv
無理言って強奪UPしてしまいました(笑)
とにかく文章が綺麗で感動してました…!
会話も接触ももろには書いてないのに、雰囲気が
色っぽすぎです…///
サンジの片恋に一見見えても、実はものすごい
両思いっぽいのがツボです。
どこか退廃的でダークなレンさまの作品もツボ
です+ 流血…!(萌)←ぐろスキーです(笑)
掲載OKしてくださり、ありがとうございましたv

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